第33話 能力の考察


 依頼は後回しでも構わないとは言われたが、仕事である以上そうも言ってはいられず。

 これも周りからの信頼に繋がる上、不確定要素が多いからこそ後に取れる選択肢は増やしておくに越したことはない。

 とはいえ記憶の共有やスキルの話も早い所聞いておかないと、不安が伴う。

 全く、忙しい話もあったものだ……だから、と言って良いのか分からないが。

 使用する予定の武器や備品の準備などなど、隊の皆に分担して仕事をしてもらう事になった。

 チェックや使用する物品のリスト化などの細かいは術師のロナに。

 その補佐として、武器各種に詳しい狙撃手キリ。

 我らが兄貴分、ケイには全体の統率と指示役。

 食事番のナナには皆の分の遠征中の食料品の管理、足りなくなるであろう食材などのリスト化作業。

 医療班のシーナとルシアには当然医療品の管理と遠征準備、そして各自が提出してくる書類のチェックをお願いした。

 そして最後に俺の下へ届き、兵士達にお願いして王宮へと支援を要請する。

 前々から仕事の分担を図ろうとは思っていたが、まさかこの忙しい時期に実行する事になるとは思わなかった。

 今まではある程度の所まではソーナがこなし、俺が着任前の駒使いへと申請していたらしいが。

 受理される事の方が少なかった為、どれも管理が甘くなってしまっていたんだとか。

 今回ばかりは俺が全部終わらせて、また今度ゆっくり時間が取れる時に皆に仕事を教えれば……なんて声を洩らしてみれば。


「駄目です、また倒れます。今度は魔素云々ではなく過労で」


 ソーナからピシャリと言い放たれてしまい、結果として俺達には少ないが話し合いの時間が取れる様になった。

 俺の部屋が随分と風通しが良くなってしまったので、空き部屋に集まった三人。

 俺とソーナ、そしてフェル。


「さて、それでは前回の話し合いの続きから始めましょう。今までの事を資料にまとめてありますので、そちらと照らし合わせながら」


 そう言って壁に張り出された資料の数々を指さすソーナ。

 ここ数日、何度か話し合った結果分かった事が幾つか。

 まずは俺のスキルについて。

 こちらは“以前の俺の考察”という言葉の下、ほとんどソーナから聞き出したものだが。

 どうやら“演習”はもちろん、“分配”さえ他では見ない特殊なスキルだという事が明確になった。

 しかも“分配”に関しては他の人間も巻き込んでしまう上、その後も相手に影響を与えてしまう。

 更にこのどちらも世界規模というか、非常にスケールが大きい話になってしまうが……症状から見るに、“世界そのもの”と繋がりがある能力なのではないかという話だった。

 最初に聞いた時はなんのこっちゃ、とか思ってしまったが。

 まずは“演習”。

 此方は時間を遡り事例をリセットしてしまう為、確かに世界規模と言って良いのかもしれない。

 俺の周りの時間だけが巻き戻っている訳ではないのだから。

 とにかくこっちは効果だけ見ると非常に分かりやすいスキル……だったのだが、問題も存在した。

 発動のトリガーが未だあやふやなのだ。

 仲間の死、だと思っていたのだが……どうやら隊員が死亡しても、俺が“戻らない”事もあったんだとか。

 未来の俺が諦めたのか、それともスキル自体が発動しなかったのか。

 そこまでは聞き出せなかったという話だったが。

 そして厄介なのが“分配”。

 こっちのスキルは、どうやら制御出来るモノだとは思わない方が良いらしい。

 言葉通りなら多くの人間に何かを分け与える行為、もしくは皆で分け合う行為を指す。

 だと言うのに。


「このスキルは、魔素だけなら本当に分け与える……と言うより二人で均等に分ける様なモノだと言っていました。そのお陰で私は余分に吸収してしまった魔素を駒使いに分ける事が出来て、魔素中毒を乗り越える事が出来た訳です。代わりに駒使いはキャパシティ以上の魔素を体に蓄える事になり、嘔吐などの症状に見舞われた形ですね」


「皆の場合は命に関わるが、俺だったら体調不良で済む。逆に俺の魔力量が多かった場合、対象者の魔素を吸い上げる所か、より分け与えてしまった可能性もあるという事か。だとすれば中毒症状は避けられない」


「はい、バランス良く配分出来れば問題ありませんが、そういう使い方は出来ないみたいです。魔力切れで急速に空気中の魔素を吸い上げた体が発作を起こす、逆に自らが制御出来る魔力量以上を注がれた場合でも、その時もまた私達は魔素中毒を引き起こします。結局は体内外の魔素バランスが著しく狂ってしまった場合に発症するのが私達の病気ですから」


 という事で、そういう使い方でも“分配”は注意が必要な様だ。

 今回はソーナだったからギリギリ……と言って良いのか、死ぬほど酷い二日酔いの様になったが。

 これがロナなどの魔力貯蔵量が多い相手だった場合。

 彼女がまだ魔力に変えられていない魔素が一気に俺に流れ込む事となり、今回程度の体調不良では済まないと脅されてしまった。

 ロナ……ライフルの最大火力も平気で撃てるって言ってたもんな。

 魔力切れになったら即死に繋がりそうな存在だからこそ、普通だったら絶対最大火力なんて使ったりはしないだろう。

 という事は、今見ている彼女の実力も加減して“アレ”。

 どれだけ魔力タンクなんだ彼女は……。


「そして“分配”最大の特徴。そしてこちらのスキルも世界規模というか、“そういう繋がり”があるのではないかと考えられる理由が」


「記憶の共有……“演習”によって俺だけが戻ってしまった世界でも、皆が俺の事を記憶している原因」


「はい、思い出す為には何かしらのきっかけが必要になりますが……そもそもおかしいんですよ。私は“演習”が使える訳ではありません。だと言うのに、“分配”を使用される前に戻っても記憶が蘇った。“演習”のスキルもある程度私達に分け与えられた、というのなら納得がいきますが、今の所理由ははっきりとしていません。恐らく二つのスキルの組み合わせの影響だと思われますが……そして毎度私のトリガーとなっているのが」


「魔力切れ。または魔素中毒、そこからの復帰……か」


「まるで世界は貴方の事を覚えていて、魔力に変わっていない空気中の魔素を取り込んだからこそ思いだした。みたいに思いませんか? 世界の記憶を取り込む事により、私の様な存在は未来の貴方を思い出せる」


「ロマンチックなんだか、世界から呪われているんだか。ちょっと判断に困る発言だな」


 クスクスと笑うソーナに思い切り溜息を溢してみれば、フェルは思い切り首を傾げながらポツリと言葉を洩らした。


「何を話し合っているのか、私には良く分かりません……」


 どうやらこの子は、”そう言う記憶”を確定する程のモノは持っていないらしい。

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