第16話 復活
結局、何だったんだ? ソーナは詳しい事までは教えてくれなかったが。
なんて事を思いながらため息をつき、再びベッドに横になろうとしたその時。
「駒使いさん! 大丈夫ですか!? 目が覚めたって聞きました!」
「大将! 平気か!? 発作は起きてねぇか!?」
両目に涙を溜めたロナと、どこから走って来たのか……汗だくのケイが部屋の中へと駆けこんで来た。
「あぁ、えっと……すまん。心配掛けた」
とりあえず謝ってみたが、二人は不満そうな顔を浮かべたままベッドまで近寄って来る。
そして、いかに魔力切れが自分達にとって怖い事なのか。
更には魔力切れを起こした仲間を見た時どう思うのかを、とてもとてもよく聞かされてしまうのであった。
あまり深く考えてはいなかった内容だったのだが、彼等にとってはトラウマとも呼べる内容に他ならない事態だったらしい。
今後は軽率な行動は控えないとな……なんて、改めて反省したところで。
「全く……駒使いさん、いくら異世界人だからとは言え魔力は無限じゃないんですよ? 一体どれ程乱射したんですか?」
「そうだぜ大将。その時手に持ってたのなんか、拳銃だって言うじゃねぇか。最大威力で何発もぶっ放したんだろう? 今後はマジで止めてくれよ? 俺達からしたら、生きた心地がしねぇ事態だからよ……」
二人から、そんな御言葉を頂いてしまった。
うん、なんというか。
非常に気まずい、色々な意味で。
あと事実を伝えたらどんな顔をされるか分かったもんじゃない。
「六発……いや、七発」
「はぁっ!? 最大のを七発も撃ったのかよ!? そりゃ魔術師でもない限り魔力切れになるぜ!? あ、でも拳銃の方か。ライフルだった場合は、そこらの魔術師だってキツイって聞くが。そう言うスキル持ちか、一定の魔力を流し続けるのが上手い奴じゃねぇと銃に余分な魔力を食われるんだ。初めて銃使った大将がそんなにいっぺんに――」
「最小のヤツを、七発。最初、ケイに声を掛けられた時のも含めて……全部拳銃」
そのままお説教でも始まりそうな勢いだったが、俺の呟きで室内から音が消えた。
二人共「コイツ何言っているんだろう?」くらいの表情を浮かべて、珍獣でも眺める様な視線を送って来る。
「大将、多分疲れてるんだ。大の大人がそんな数で魔力切れになる筈がねぇ……アレだ。体調が悪かったとか、な?」
「そ、そうですよ! 私だって最大威力で数発は撃てますもん! ……ライフルの方ですけど。保有魔力だけは多いので、魔法だったらもっとお役に立てますが銃はちょっと苦手で……って、そうじゃなかった。きっと駒使いさんの勘違いで、他の威力に設定されていたんですって!」
二人して物凄く励ましてくれるわけだが。
残念な事に本当に最小威力だったのだ。
何度も確認した、白宮君にも目視させてOKを貰った。
その上で、俺は七発しか撃てなかったのだ。
ライフルでは無く、拳銃で。
「……俺の魔力、少なすぎ?」
思わずそっと両手を口の前に持って来て、呟いてしまった。
そりゃこんなステータスじゃ、国の人も俺の就職先に困る訳だよ。
しかも“指揮官”の文字が無ければ、ここに居なかった可能性の方が高い。
だとすると、え?
俺、王宮からかなりごく潰しに見られているということなのだろうか?
滅茶苦茶我儘言いまくっているんだが。
「た、大将! 調子が戻ったなら飯にしよう! な!?」
「そ、そうですよ! また皆で一緒に何か作りましょう!? 美味しいモノ作りましょう!? 最近はケイも手伝ってくれるんですよ!? わ、わぁー! 楽しみだなー!」
二人からとても不器用な気遣いを受けながら、俺は手を引かれキッチンへと向かうのであった。
なんだろう、別に良いんだけどさ。
俺の仕事、指揮だし。
でも、こう……あるじゃないか。
異世界と言えば、魔法と剣の世界と言えば。
色々あるじゃないか。
魔法でドーンとか、剣でバーンとか。
だと言うのに、俺は非殺傷弾を数発撃ったら終わりなのだ。
“向こう側”だったとしても、非殺傷弾一発で相手を無力化出来る人ってどれくらいいるのだろうか?
つまり、俺の魔力。
“こちら側”では無価値。
殺傷弾なんて一発撃てば、その時点で魔力切れを起こすかもしれない。
なんだコレ、俺は一体何なんだ。
一緒に呼ばれた面子と比べて、どれ程にステータスが低かったのか。
今考えるだけでも恐ろしい。
更に言えば、白宮君はどうしたんだろうか?
結局迷惑を掛ける形になってしまったから、今度会ったら謝らないと……。
色々と頭を痛くしながら考えていれば。
「ま、無事で何よりだ。大将」
「本当に心配したんですからね!? もう起きないんじゃないかって、キリちゃんなんてガチ泣きだったんですからね!?」
どうやら、自身の事より皆の対処を優先した方が良さそうだ。
大袈裟すぎるとは思ってしまうが、彼等の状況からすれば仕方のない事なのだろう。
という訳で。
「こちら駒使い。キリ、聞こえるか?」
イヤリングに手を当てて声を放ってみれば。
『……ぁぃ、キリです。グスッ……ごめんなさい』
向こうからは、ズビズビと鼻を啜る音としゃくり上げる声が聞えて来る。
どうやら、本当に心配させてしまった様だ。
「キリ、一緒に料理をしないか? 皆で食事を作るんだ、良ければ手伝ってくれ」
『でも……』
「俺はもう大丈夫だ、それにキリのせいじゃない。すまなかった、不安にさせてしまった。だから、な? 手伝ってくれると、俺も助かるんだが……」
『……すぐに行きます』
未だズビズビ鼻を鳴らすキリは、それだけ言って通信を切った。
まさかここまで心配を掛けていたとは……俺に銃の使い方を教えてくれている時のキリからは、全く想像出来ない程弱り切っている様子だった。
自分のせいで今回の“駒使い”が死んでしまった場合不味い、という心配の方が大きかったのかもしれないが。
それでも、アレだけ泣いていたのだ。
随分と不安な気持ちにさせてしまったのだろう。
彼女には少し、甘いモノでも作ってご機嫌を取らないといけないかもしれない。
そんな事を考えながら、ため息を溢して廊下を歩いた。
ケイとロナに引率されながら、やけに心配された眼差しを向けられて。
十代の若者に本気で心配されつつ、挟まれる様にしてテクテク歩くおっさん。
非常に情けない、一回りも下の相手にこの歳で介護されている気分だ。
全く、どうしてこうなったのやら。
訳の分からない記憶と事態に、未だ把握しきれない常識。
それでも俺を心配してくれる仲間達。
こんな情けない俺が、彼等に指示を出して良いのかと不安になってしまう気持ちもあるが。
「次の仕事までには体調を戻さねぇとな、今日はいっぱい食えよ? ただでさえ大将は細いんだ」
「頑張って作りますから、いっぱい食べて下さい! 元気になるはずです!」
未だ励まして来る二人から優しい御言葉を頂き、更には。
「駒使い。キリ、到着しました。本当にもう平気?」
目元を真っ赤にしたキリまでもが、こちらに駆け寄って来た。
そして二人同様俺の事を心配そうに見つめ、やけに近い位置に着いて歩きはじめる。
これはもう、心配など掛けられないだろう。
誰も彼も俺より若く、俺よりずっと多くの物を背負っているのだから。
大の大人がこんな様子では目も当てられない。
というか、情けない姿ばかり見せていては居心地が悪い。
「それじゃ、皆でキッチンに行こうか。この時間じゃ、ナナが作り始めているかもしれないけどな」
とりあえずキリの頭に手を乗せて、ピンと立った犬耳を撫でまわしながら歩いて行くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます