第15話 魔力切れ


「目が覚めましたか、駒使い」


 瞼を開けてみれば、ベッドの隣でソーナが本を読みながら座っていた。

 一体何が……とか思ってみる訳だが、言葉にする前に思いだした。

 俺は、拳銃を乱射して魔力切れを起こした様だ。


「どれくらい眠っていた?」


「二時間程です、本当に軽い魔力切れだったようで。羨ましい限りです」


「……羨ましい?」


 異世界人で特別扱いされているのは理解しているが、他の皆と比べるまでもないチンケな魔力量の俺。

 更にはたった数発発砲しただけでぶっ倒れる俺の何処が羨ましいのだろうか?

 思わず首を傾げてみれば、彼女はパタンと本を閉じてから鋭い眼差しを此方に向けて来た。


「貴方は、“私達”に関してだけは詳しいんじゃなかったんですか?」


「いや、えっと……たしかに何故か皆の能力はよく覚えているが。何故そんなに怒っている? ソーナ」


「言い方を変えましょう。“駒”の知識は、どれ程覚えていますか? 魔素中毒症状は? その対処法は?」


「……すまない、ほとんど言葉そのものを記憶しているだけだ」


 こちらの言葉に、大きなため息を溢すソーナ。


「別に駒使いという立場なら、私たちの事なんて――」


 そう言いかけて、何かを考え込む様な素振りを見せ始める。

 どうしたのだろうか?

 思わず上体を起こして、彼女の事を見つめていれば。


「すみません、説明するべきですよね。コレは指揮に関わる事ですから」


「えぇと、良く分からないが。頼む」


 頭を下げてみれば、もう一度ため息を溢した彼女は淡々と説明を始めた。

 それこそ、会社の研修か大学の授業の様に。


「良いですか? 銃とは一般的に、術師以外の魔力保有者を“それなりの戦力”に格上げする為の武器です。もちろん名手なども居ますが、問題はそこではありません。確かに使い方によっては強力な武装になります、しかし世間では“それなり”という評価を受ける。それは何故か……しっかりと扱える人間が少ないのです」


 その言葉に、思わず首を傾げてしまった。

 今言われた通りだと、そもそもの評価自体がおかしい。

 “それなりの戦力”以上の効果が発揮できるのに、その総評を受けない理由。

 一体それは何だ?

 多少のデメリットだったとしても、結果さえ残してしまえば評価の対象になりそうなものなのに。

 なんて思いながら、彼女の言葉を待っていれば。


「駒使いのお知り合いの方が放った最後の攻撃。アレは普通の人間なら一発以上撃てるかどうかも分からない程の代物です、つまり便利ではあるが使いこなせない人の方が多い道具なんです。それに先程の彼は随分と魔力量が多いのでしょうね、あれ程の威力を出せる上に連射出来るのですから。スキル持ちであればもっと少ない魔力で高威力が叩き出せる方なのでしょう。つまりあそこまでいくと、一般的には魔力を食う量が多すぎる欠陥品と言うことになります」


 なるほど、確かに。

 以前の戦闘でもケイのスキル攻撃の方が派手だったし、何より威力が髙そうに見えた。

 先程白宮君に見せてもらった銃撃も凄かったが、スキル持ちは更に上の威力が出せる技を持っている。

 だからこそ、“それなり”な訳か。

 しかしながら、特殊な能力を持たない者達からすれば相当便利な道具には違いない様に思える。

 この考えが間違っていないからこそ、銃の普及は止まらないのだろうが……。


「ハッキリ言います。貴方方“普通の人”なら貧血や気を失う程度で済みますが、我々“駒”にとってそれは自殺行為です。魔素や魔力の乱れによって起きる発作、そう書いてあったでしょう? その発作と言うのは、今の貴方の様な体調不良では済まないんですよ。息も出来なくて、全身がガクガクと震えて。その上、何かを体がずっと求めているかのように“渇望”するんです。その現象はその時々により大小ありますが、それなりの確率で死に至ります。ここまで言えば分かったでしょう? 銃の性能を知った所で、私たちは全てを使いこなす事は出来ません。あの銃で貴方が“六発目”を撃てと命じるなら、私は引き金を引きましょう。しかし、それは私達に“死ね”と言っているのと同意義だと理解して下さい」


 思わず、なるほどと納得してしまった。

 実際俺も、あの威力を見た時に“状況によっては使える”と思ってしまった程だ。

 しかしながら、その一発は彼女達にとってのデッドライン。

 自らの命を投げうってでも引き金を引かなければいけないその時以外、絶対にひき絞ってはいけない一撃だということだ。

 そう言うことなら、白宮君が平然と強力な威力の魔弾を放っていれば嫌な気持ちにもなるだろう。

 俺が魔力切れになるまで銃をぶっぱなしたと言えば嫌気がさすだろう。

 彼女達にとって、俺達の行動は。

 自らには出来ない、もしやってしまえば命に関わる事例なのだから。

 だというのに、俺達はまるで遊び感覚でやってしまった。

 こればかりは、知らなかったとはいえ頭を下げる他ないだろう。


「すまなかった。今度から気を付ける」


「謝る必要はありません、駒使い。私は別に、貴方の行いを非難したわけではありません。次の作戦で軽い気持ちで“中毒者”を出されなければ、それで結構ですから」


 それだけ言って、彼女は本を脇に抱えたまま立ち上がった。

 そして。


「でも、ロナとケイ。それからキリには声を掛けてあげて下さい。皆、心配していました。キリに関しては最初に伝えておくべきだったと、非常に反省しております」


「いや、コレに関しては完全に俺が悪い訳であって……」


「それでも貴方に何かあった時、責任を取らされるのは“駒”です。その辺り、お忘れなく」


 とても冷たい言葉を放ちながら、彼女は背を向け扉に向かって歩いていく。

 だが、ふと思い出しかの様にもう一度振り返ってから。


「ロナとケイには、注意して下さい。あんな二人、初めて見ました」


「は?」


 それだけ言い放ったかと思えば、ソーナはそのまま部屋を出て行ってしまった。

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