第14話 武器の授業
「まず最初に言っておくけど、俺もマニアって程詳しくないから間違ってても文句言わないでくれよ? ほとんどがゲームとか詳しい奴から聞いた話だから、そこら辺理解した上でおなしゃす」
「あぁ、問題ないよ」
そんな訳で始まった白宮少年による銃の講座。
まずは長物。
基本的にウチの部隊に支給された大きい銃は、この一種類のみ。
“向こう側”のライフルと同じような形の物。
それこそゲームなどでは見た事があった代物な訳だが。
なんでも過去“こちら側”に来た人の知識で無理やり作ったと言うか、それっぽく作った。
というのが正しい表現になるらしい。
「そもそもこっちの銃って、俺等の知ってる銃と違って実弾を使ってない訳よ。んで、そうすると何が起こるかって言うと?」
「コスパが良い、とか?」
「ん~当たらずしも遠からず? もっと初歩からの問題なんよね。弾が必要ないから、銃を作る事出来る」
「ほぉ?」
ちょっとややこしい言い回しだとは思うが、続く説明によって徐々に理解する事が出来た。
銃を作る事に対しての一番の問題は、なんでも銃弾の方にあるとの事。
一つ一つの弾を誤差なく大量に作る技術力と、その他専門的な知識が必要となって来る。
だからこそ銃は作れても弾が作れないという事態に陥るという。
では銃弾を使用せず、魔法という技術に頼ったこの武器はやはりとんでもなくコスパが良いのでは? と思ってしまったのだが。
「こっちの製鉄技術調べた事ある? 無理無理、プレス機やら旋盤がある訳でもないし。そういう専門の魔術師とか鍛冶師が、細かいパーツ一つ一つ作ってんの。だから手間と金がかかる。それにこう言っちゃなんだが……やっぱり機械で作る物よりも質が悪い。だから新しめなゴテゴテした銃とか、精密な加工とか、それこそ銃弾作りは無理って訳」
なんともまぁ、気の遠くなる話だ。
しかしそうなって来ると、よくこれだけの数をウチに回してくれたものだ。
改めて王様には感謝しないと。
というか、そんな理由があるのならそもそも銃という形を取らなければ良いのでは?
ソーナは掌から魔法弾を放っていたし、ロナは杖を使っていた。
「つってもまぁ、結局は魔術師以外が魔法を使う道具の一種として浸透したのは間違いない訳だ。魔力があって引き金を引ければ一応撃てる訳だし。あ、こういう説明いらない? 使い方だけ教えれば良い?」
「いや、出来ればそのまま続けてくれ。丁度疑問に思っていた箇所の答えが出た所だ」
「そんじゃまぁ遠慮なく」
なんでも、こちらの銃と言う名の魔道具。
そもそもこの形にする必要さえ、最初は存在しなかったそうな。
先程白宮君が言った通り魔術師以外が魔弾を撃てるメリットはあるものの、この形である必要は無い。
では何故未だこの形になっているかというと。
単純に戦う者達からの“扱いやすい”という意見。
ただただ真っすぐ発射されるだけの単純な魔法、魔力さえあれば誰でも扱える利便性。
元々“そう言う道具”として設計された形なのだから、当然と言えば当然なのだろうが。
その結果、出来上がったのが。
「このM7〇0モドキって訳だ。そもそもコレをボルトアクションって言って良いのか分からねぇし、デカいシリンダーが付いてるし。これで良いのかよって見た目な訳だが、一応コレにも意味があるんだ。あ、ちなみにこの形がベースってだけで他にも色々作られてるぜ?」
そう言って白宮君は一度ライフルに取り付けられたレバーを引いて、何やら弄ってから、ボコッとシリンダーを引っこ抜いた。
え、取れるんだアレ。
「これはさっきおっちゃんが使ってた拳銃でも同じな。そっちもシリンダーが付いてるだろ? これは何かと聞かれれば、早い話マガジン代わり……ていうのも変か、燃料は使い手の魔力な訳だし。魔法にも色々あって、属性だとか、どれくらいの威力、どれくらいの距離を飛ばすかっていう事で種類が分かれてんの。ホレ、見てみ? 弾は無いのに、それっぽい刻印があるだろ? シリンダー部分を回転させて、使いたい魔法を選ぶって訳だ」
「へぇ……へぇ~……つまり、同じ銃でもすぐに威力を変えられるって事か?」
「ま、簡単に言えば。見せようか?」
「是非!」
そんな訳で、白宮君による実施演習が始まった。
今まで銃が置いてあったテーブルを狙撃練習用の壁の前まで持って行き、大小様々な石を並べ始める。
その後こちらに戻って来たかと思えば。
「んじゃ行くよー」
おもむろにライフルを構え、ガシャンッ! とレバーを引いてからスッと目を細めた。
おぉ……俺と違って様になってる、なんて思っている内にズパンッ! という以前も聞いたあまり大きくない発砲音が聞えた……のだが。
「あれ? 石が……欠けてはいるけど、吹っ飛んで行った?」
「そ、コレが最小威力。相手を生かしたまま捕らえる時とかに使うヤツだな。ここにあるのは単純に威力と距離調整のシリンダーだけみたいだから、順に見せるよ」
言いながらもう一度レバーを引けば、ソレに合わせて回転するシリンダー。
なんかこの時点で格好良いぞ?
ワクワクしながら眺めていればズパンッ! ともう一度音がして、今度は石が粉々に砕け散った。
二発目にして、当たったら怪我では済まなそうな威力になってしまった。
その後もレバーを引いてシリンダーを回転させ、もう一発。
それを全部で六回ほど繰り返して、全ての威力を見せてくれた。
結果、分かった事は。
「最後の方は、“向こう側”のデカいライフルより断然強いんじゃないのかコレ……? いや、本物の銃の威力をこの眼で見た事はないけど」
「見た事無いのは俺も一緒だけど、多分そうだと思うよ。なんたって魔獣やら魔物やらを相手にする訳だからさ。相手の体を吹っ飛ばすくらいの威力が欲しかったんじゃない? ただし、魔力量もかなり違って来るから注意な。魔力切れになると、簡単に言うと貧血みたいな感じになるから。そんなんじゃ戦えないだろ?」
最後の一発なんて凄かった。
弾速も速かった、というか見えなかったし。
何より直撃した石が砂にでもなったかのように粉々に砕け散ったのだ。
当然それだけで済む筈も無く、後ろにあった分厚い壁に随分と大きな穴をあけた。
貫通した訳ではないので周辺に被害はないが、それでもこんなモノを喰らったら人間なんて木っ端微塵になってしまうだろう。
前回の作戦時、皆が使っていのは多分三番目か四番目くらいのモノか?
距離の調整なんかもあるらしいから、正確な事は分からないが。
弾速とかを見て、一番近かったのがその辺りだ。
あの大物相手にも最後のコレを使わなかったところを見ると、言葉通り魔力消費がとんでもないのだろう。
威力は凄いが、確かにこんなモノを連発して戦場で倒れられても困ってしまう。
その辺りは本人の匙加減という事もあるのだろうが、指示を出す身としては知っておいて良かった。
緊急時にはコレを、通常時には今まで通りにといった判断が出来る。
「本当にありがとう、勉強になったよ」
そう言って頭を下げてみれば、白宮君は不思議そうに首を傾げ。
「いや、うん。良いんだけどさ。おっちゃんは使ってみねぇの? 自分で体験してみないと、意味なくね?」
確かに。
そもそも自身でも銃を使える様になる為、今日キリにコーチをお願いしたのだった。
流石にさっきの威力を見せられると、ライフル型は俺が扱うのは難しそうなので……もう一度拳銃の方を手に取る。
ライフルと同じくシリンダーが付いた、随分と古めかしい形の物。
そして、白宮君に教わりながらパカッと開いてみれば。
「コレが一番弱いヤツで、こっちが強いヤツ。色で覚えると良いぜ?」
という事らしく、まずは一番弱いモノから。
先程一発は撃ったけど、ケイがいきなり声を掛けて来たから良く分からぬまま終わってしまったからな。
なんて事を思いつつ、改めて銃を構えた。
「力入れ過ぎだって、もっと肩の力抜いて。あと腰引きすぎ、ビビんないでシャキッと立ってみ? 見た目はシングルアクションだけど、普通に連射出来るから」
最後の方に言われた事は良く分からなかったが、とにかく連射できるらしい。
言われた通り体勢を整えてから、ゆっくりとトリガーをひき絞れば。
ズパンッ! と音がして魔法が発射された。
改めて、初めて武器を扱ったという感動と、魔法を使ったのだという感動が押し寄せて来た。
俺、“こっち側”に来てからそれらしい事してないからな。
「出た! 出たぞ! 魔法!」
「すっげぇその気持ち分かる。初めて魔法使った! って感動するよな。とにかく少し連射してみれば? まずは反動を覚えないと、当たる物も当たらないぜ?」
そんな訳で、続けざまに引き金を引いてみた訳だが。
あれ? なんか変だ。
「おっちゃん? どうした? え、おいまさか。たった六発撃っただけで魔力切れとかないよな? フラフラしてるぞ?」
なんだか、彼の声が遠くから聞えて来る気がする。
何故だろう、すぐ近くに居た筈なのに。
その後すぐに膝が震え始め、立っていられなくなってしまった。
ガクッと体勢が崩れ、思わず膝を付いてしまった瞬間。
「救護班! 居るか!? 誰か来てくれ!」
彼の叫び声と同時に、ぷっつりと俺の意識は暗闇に包まれるのであった。
あぁ、なるほど。
これが魔力切れってヤツなのか……。
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