第7話 食え、話はそれからだ


「これは……困ったな」


「すみませんすみません! ご期待にお答えできず! でも今日届いた食材はコレが全部でして……」


 大きな猫耳を生やした食事番の“ナナ”。

 非常に申し訳なさそうにしながら、ショートカットの髪を揺らして何度も謝って来る。

 彼女の前には大きめの木箱が一つ。

 それこそ色々なモノが詰まっている訳だが、どう見ても“全員分”には足りない。

 肉などは……あぁ、冷蔵庫の様な物があるのか。

 変な形の金属箱に納められていた。

 これだけあれば、どうにか一食分くらいにはなるか?

 う~むと悩みながら、首を傾げてしまった訳だが。


「何か不満が? 貴方の一週間分程度の食料には十分かと思いますが。まさか好き嫌いが激しいとか、偏食だったりするのですか?」


 ジロッとソーナから睨まれてしまうが、そうじゃないのだ。

 未だ頭を下げ続けているナナを止めてから、とりあえずテーブルに食材を並べて見る事にした。

 とにかく種類が多い、そして“向こう側”とあまり見た目は変らない。

 しかし、一つ一つの数が少ないのだ。

 これでは多くの種類をいっぺんに作ってどうにかするしかないのだが……手間だな。

 現在ここに居るの“駒”は二十数名。

 小隊一つ分という程度で、そこまで多くなかったのが救いではあるのだが。


「まぁ、仕方ない。ナナ、思いつく限り片っ端から作るぞ」


 そう言って腕まくりしながら、野菜の一つ手に取ってみれば。

 ナナとソーナから驚いた眼差しを向けられてしまった。


「えっと、え? どういうことですか?」


「まさかとは思いますが……一食で全て使い切るつもりですか? どれだけ大食いなんですか貴方は」


 何か変な誤解を受けてしまっているようだが、まぁ良い。

 俺も一人暮らしが長かったから、少しくらい料理は出来る。

 なので、適当に料理を始めてみた訳だが。


「旦那、追加の物資が……って、何やってんだ?」


 俺がここに居ると誰かに聞いたのか、キッチンに顔を出したアイガスが呆れた顔を向けて来た。

 おっと、彼らが戻って来たという事は人数が倍になってしまった。


「アイガス、戻ったばかりですまない。大至急食料の追加を申請してくれ」


「いや、まぁそりゃ構わないが……まさか“全員分”作るつもりか? あんまり我儘言うと上からも突っつかれるぜ? 駒なんぞ道具だ、実績を残さぬ限り餌をくれてやる必要もない~! って豪語してるお偉いさんだって居るくらいだしな」


 彼の一言により俺が何をしようとしているのか気が付いたらしく、ナナとソーナがこれまた驚愕の表情を浮かべている。

 君達は意外と表情豊かだな。

 そんなに俺が皆の分の料理をしようとするのが意外か。


「最初こそ金がかかるのはどんな事業だって同じだ。それこそ“異世界人”の特権を使わせてもらうさ。今回届いた食料が俺の一週間分なのだろう? なら、最低でも二十数倍寄越せと伝えてくれ。人は食わなければ動けない、戦士ともなれば余計にな」


「へーへー、まずお小言言われるのは俺なんですけどね。言われた追加物品、今中に入れてますんで、後で確認してくださいな」


 それだけ言って、呆れ顔のアイガスがヒラヒラ手を振りながら再び出かけて行った。

 何度もお使いさせてしまって申し訳ないとは思うが、何から何まで足りないのだ、この場所は。

 とてもじゃないが大人数が暮している場所とは思えない程、物資が少ない。

 何てことを考えながら、調味料の棚を漁ってみれば。

 今度は俺が目を見開いてしまった。


「アイガス! 待つんだアイガス! 追加で頼む! 調味料もだ! 全然足りない! 米、パン、麺なんかの主食系も山の様に頼む!」


「わーったよ旦那! 叫ぶな叫ぶな! 上の連中全員から怒鳴られるつもりでかっぱらって来てやるから!」


 廊下の向こうから、彼の叫び声が返って来た。

 とてもげんなりした顔が見えた気がしたが、そのまま廊下の先へと消えていくアイガス。

 よし、これで今有る物を全て使ってしまっても問題なくなるはずだ。

 断られたらどうしようとは思うが、こればかりは祈るしかない。

 皆に腹を減らした状態で仕事などさせられるか。

 それだったら俺もレーションを食ってやる。

 自分だけ豪華な飯を喰らって、偉そうに踏ん反り返っている事など出来るか。

 ソレが出来る程、俺の肝は座っていないのだから。


「本当に、何を考えているんですか」


 信じられないという表情のソーナは、再び顔を顰めて此方に視線を向けている訳だが。

 生憎と、コイツの“駒使い”のイメージ払拭に言葉を紡いだ所で意味はないだろう。

 だったら、実力行使だ。

 俺の指示にちゃんと従ってくれる様に、俺は俺なりの誠意を見せる他あるまい。


「お前も手伝え、ソーナ。芋の皮むきくらいは出来るか?」


「馬鹿にしないで下さい、刃物の扱いは慣れています」


「わ、私もお手伝い……というか、私が作りますからっ!」


 慌てた様子のナナと共に、ソーナは俺と共にキッチンに並んだ。

 三人で四十人分の食事を作るとなると、結構気が滅入りそうだが。

 アイガス達は自分達で作るだろうか? それなら半分で済むのだが。

 まぁ、愚痴っても仕方のない事か。

 これからはもう少し料理番も増やして、手間を減らした方が良さそうだ。

 何てことを考えながら、俺達は分担して料理を拵えていくのであった。

 ちなみに、ソーナは滅茶苦茶料理が下手だった。

 これから覚えて行けば良いさ、次はサイコロサイズのジャガイモが完成しない様に。

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