第8話 食事の意義
「……なんだこりゃ」
「我々の食事です。早く座って下さい、ケイ」
「はぁ?」
ソーナの指示により食堂に集められた俺達。
目の前には数多くの料理が並んでおり、誰しも涎を垂らす想いで眺めていた。
俺達に与えられるのは、いつだって旨くもねぇレーションばかりだった筈。
だというのにコレが、俺達の飯だぁ?
何かの冗談かと思ってしまった訳だが、あの駒使いと兵士達の分だって事では無さそうだ。
兵士達は外で炊き出ししながら何か仕事をしていたし、あの駒使いはこの場に居ない。
「どういうことだ?」
「今度の駒使いは変人だと言う事です」
彼女の言葉に、思わず引き攣った笑みを浮かべてしまった。
「ハッ! アイツは俺等の事も“普通の人間”扱いしてくれてるとでも? ありえねぇだろ、俺等は駒だ。それとも異世界人ってのは皆偽善者だとでも言うのかよ?」
大袈裟に両手を拡げて叫んでみたが、誰しも似たような気持ちなのか皆不安そうな顔をソーナに向けていた。
だが彼女は表情一つ変える事無く。
「知りませんよ、本人に聞いたら良いじゃないですか。誰であろうと、いつでも彼の部屋に入室を許可すると言われましたから」
「……マジで何考えてやがる、あの駒使い。俺らが寝首を搔くとは思わねぇのか?」
なんて、思わず言葉溢してしまった訳だが。
「えっと、良い人なんじゃ……ないかな。駒使いも、一緒に料理してくれたんだよ? 皆の分だからって」
駒使いの飯を作る為だけにここに呼ばれたナナが、そんな事を言い始めた。
アイツが、ナナと一緒に飯を作った? しかも俺等の飯を?
それこそあり得ねぇだろ。
駒使いってのは基本的に傲慢な奴が担当するもんだ。
俺達をどこまでも道具扱い出来て、誰が死のうと表情一つ変えない様な“人間様”じゃないと務まらない。
だというのに。
「本当にアイツが作ったのか? お前と」
「私も作りました」
「ソーナは途中から見学してろって言われてたけどね……」
「私も作りました」
「う、うん……そうだね」
と、言う事らしい。
こうなると、本当に俺達の為に労力と食材を馬鹿みたいに使ったらしい。
そんな事をする駒使いは、今までに居なかった。
居る筈が無かった。
だって俺達は、家畜と一緒なのだ。
人と認められていない筈なのだから。
「とにかく、食べましょうか。駒使いの気まぐれだったとしても、今回は許可を貰った訳ですから。コレは食べても罰則などは発生しません」
という事で、ソーナを初めとして皆が席に腰を下ろしていく。
誰しも目の前の食事を眺めながら、どうしたものかと視線を泳がせている訳だが。
「……返せって言われる前に、食っちまうか」
ポツリと呟いてから、目の前の肉にフォークを突き立て口に運んだ。
すると。
「……」
「ケイ?」
肉を口に放り込んだ瞬間、思わず固まってしまった俺に対して仲間が不安そうな声を掛けて来る。
だが、今の俺にはその声に答える余裕がなかった。
無言のまま違う料理も引き寄せ、自分の取り皿にドサッと盛り付けてからまた口に運ぶ。
噛みしめてみれば歯ごたえの良い野菜の食感と、噛めば噛む程旨味が広がる肉の味。
“施設”に居た頃なら、たまにはこういう食事をする事が出来た。
でも、駒として使われる様になってからはずっと不味いレーションばかり。
だからこそ、久しぶりだった。
何かを口に運んで、こんな感想を浮かべたのは。
「うめぇ……うめぇよ……」
呟いてからは、もう止まらなかった。
ひたすらに食べ物を口に押し込んで、噛みしめる様にして味わっていく。
どれを食っても、しっかりと味がする。
俺の様子を見て安心したのか、それとも待ちきれなかったのか。
周りの仲間達も、競う様に食事を始めた。
どいつもこいつも、旨い旨いと口にして。
者によっては涙なんか流しながら。
なんて、誰もが幸せそうに笑いながら食事を楽しんでいたその時。
『あー、あー。これで良いのか? 繋がってるのか? いや、何も聞こえないな……何故だ? おーい、誰か聞こえるか? もしもーし、聞こえるかー?』
えらく間抜けな声が、全員のイヤリングから響いて来た。
間違いなくアイツの声。
だからこそ、皆してビクッと動きを止めてしまった訳だが。
『おかしいな……不良品か? それとも操作が違うのか? くそっ、使い方をソーナに聞いておくんだった』
未だ聞こえて来る気の抜けた独り言を聞きながら、皆ポカンと呆けてしまう。
これが、俺達の新しい駒使い。
なんとも情けなく、訳の分からねぇ行動ばかり取るおかしなヤツ。
だというのに、思わず緩い笑みが漏れてしまった。
呆れ半分であることは、間違いないが。
「こちらソーナ。駒使い、ちゃんと聞こえております。なにか御用ですか?」
『あ、ソーナか? 丁度良いところに。これどう使うんだ? って、あれ? ソーナ? どこだ?』
「ちゃんと魔道具が使えている証拠ですよ、駒使い。私は今食堂です、他の皆にも聞こえています」
『あぁ~こんな感じに聞こえるのか。不思議だな、すぐそばに居るみたいだ』
「必要ならそちらに向かいますが」
『いや、大丈夫だ。食事を楽しんでくれ、通話終了』
「はい、御用があればまた声を掛けて下さい」
そんな会話を繰り広げ、彼女がイヤリングから指を放すが。
『これ、どうやって切れば良いんだ? もう皆には聞こえていないのか? やっほー、もしもーし』
未だ聞こえて来る間抜けな声に、思わず誰しも笑い声を洩らしたのであった。
ホント、変なヤツが上官になったもんだなオイ。
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