自覚
「ぁ、ばいばい」
疾風のように教室へ戻ってしまった彼女に声を掛ける暇もなく,過ぎ去った空間に小さく手を降った。
すると,遠くのほうで見ていた紫焔がひょこりと出てくれば海墨の肩に顔を置く。
「ちょっとちょっと海墨くーーん??もしかしてぇ…恋??」
うりうりと頬を人差し指で何度も突けば,先程の夢のような時間を噛み締めている海墨は,はっと我に返ったようで。
声のする方を見たら,眼の前に親友のニヤついた顔が飛び込んできて心底腹が立つ。
「うるっさいな…関係ないでしょ」
異世界物でよくある肩に乗ったマスコットキャラクターのような顔をした紫焔の瞳を隠すように乱雑につかめば,自分の肩から引っ剝がす。
彼から手を離せば,赤く染まった頬を隠すように口元を隠した。
それと同時に,近くにあった大きな窓から日が差した。柔らかい日に包まれた海墨の姿は…恋する一国の王子様のようで。
「ほぉ…恋かぁ〜!」
明らかに恋をしている海墨の瞳,初めて見る親友の顔。
今まで完璧を目指し人間味がなかった彼の,人間らしい感情。
それが心底嬉しくて,無意識的に海墨に抱きついた。
「おいおい海墨〜!!なんだよ水臭いなぁ!!俺は世界一応援してるからなー!!!」
「ちょ,紫焔!?」
自覚した恋に未だ戸惑っているのに,応援してると言われ少々恥ずかしい。
「ありがと」と小さく呟けば,先ほど貰った連絡先を開いてみる。
昏宮…白波…昏宮…?
何処かで聞いた名前だが,何故かぱっと思い出すことができない。
すぐに思い出せないということは,あんまり重要なことではないのだろう。
紫焔を再度引っ剥がし,教室への帰路を歩む。
彼女を絶対に自分のものにしてしまおう,と野蛮なことを考えながら。
だが彼は,彼女…白波と付き合うには大きな障害がそびえ立っていることを未だ知らない。
知らなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます