〃〃
LINEかインスタ。
まさか一目惚れをしてしまった彼女の方から声をかけてくれるなんて…と少々あっけにとられていると,白波は不安そうな視線を海墨に送った。
「ぁ…無理にとは言わねぇよ…?」
「…!勿論交換させてくれ,どっちもいいかな?」
一拍遅れて返事をすると,彼女の不安げな顔は何処かに飛んでいったようで。
まるで,8月の向日葵で作り上げた花束のように暖かく,そして眩しい笑顔を見せた。
「いいのか!?やったぁ…!これアタシのインスタ!こっちがLINEな!!」
眼の前に置かれたご飯を『待て』の状態で静止されていた大型犬が『よし』と言われた時のようで,心無しか彼女の尾てい骨からブンブンと勢いよく揺れる犬の尻尾が見える。
海墨が友だち登録を済ませたことをしっかり確認すれば,嬉しそうに大きく頷いた。
「さて,これでもう友だちだな!…あ,そういえば名前聞いてなかったっけか…?」
自分が一方的に話してしまっていたことを自覚すると,途端にぽぽぽ…と頬が赤く染まる。紫色の瞳も大きく光を孕み,髪の毛がふわりと広がった。ほのかに香るシャンプーが,目の前で照れている好きな人と相まって…まるで媚薬のようだ。
「俺は海墨,秋穂 海墨だよ」
冷静を装い,なんとか爽やか青年を演じきる。にこ,と微笑めば,彼女に対して些細な違和感が働いた。
昏宮…?何処かで聞いた名前だな…
「そうだ昏宮さん」
「白波でいいぜ!」
にか,と微笑んで見れば,目玉焼きのヘアピンをつけ直す。
スマホの電源を落とせば,何か言いたげな彼に不思議そうな視線を送る。
「じゃあ…白波さん,君のご両親のお仕事って…」
「アタシの両親?えっと…」
海墨の予想外の問に若干驚きながらも,嫌な顔ひとつ顔せずに応えようと口を開いた。
「おーい,白波ー?次の授業の準備しないのー?」
すると,白波の友だちかと思われる女子が声をかけた。
窓から身を乗り出して廊下へ声を掛ける,新校舎より広いグローバルコースでしかできない技だ。
「おー!するする!そゆことだから,続きはLINEでな!!
じゃーなー!海墨ー!!」
彼女の友だちに大きく手を振れば,自身もそちらへ駆け出す。
海墨にも大きく手を振り,楽しそうな笑顔を見せた。
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