電撃
目があったその瞬間,まるでピンク色の雷に打たれたような感覚が全身を駆け抜けた。
乾いた風吹く灼熱の砂漠を彷徨う旅人が見つけた,痛いほどに日光を浴びてきらりと輝く一つのオアシスのような。
完璧を強いられてきた彼の中で,ニンゲンとして大切ななにかが芽生えた気がした。
高なる鼓動が紫焔の紡ぐ声さえもかき消す。彼女の事をぼーっと見つめていた海墨を心配した紫焔は,彼の眼の前で大きく手を降ってみた。
「おーい…海墨?どうしたダイジョブか?」
「…ぁ,ごめん…そうだ,あそこに座りたいんだけど」
彼女以外の何かが視界に入ってきたことでやっと正気に戻ることができた海墨は,メンダコのような髪型をしている彼女を指差す。一番うしろに座っている為,前の席ががら空きだ。
紫焔は快く「おっけ」と承諾すれば,突き刺さる視線を難なくかわしてホワイトボードの前を通る。
一匹狼のように誰とも触れ合う素振りを見せない彼女の前の席に腰掛けようと紫焔を促せば、スマホを覗き込むその目に小さく問いかける。
「ここ,いーい?」
「…どうぞ」
ハスキーで低めな声だと思っていたが,案外高めで少々驚く。目玉焼き型のヘアピンが特徴的で愛くるしいな,だなんて思いながら木製の椅子に腰掛けた。
ペンギンのカタチをしたペンケースを開き,ピンク色のマーカーと青いボールペンを取り出す。
授業が始まる前は教科書に目を通し予習を済ませているのだが,今日だけはどうしても内容が頭の中に入ってこない。
これが,恋ってやつなのかな。
クルクルと指差きでペンを弄べば,教科担任がのそのそと歩いてやってくる。
北海道でよく出没するクマのような,何処か厳つくて愛嬌のある見た目。
パソコンをプロジェクターに繋げれば,「ごうれーーい」と気だるげな声でそう呟く。
「きりーつ,れーーい」
隣に座った紫焔が,教科担任と同じくらいのテンションで号令をかける。
先ほど話していた彼の声色と大差が有りすぎて若干驚いてしまった。
さて,しっかり勉強しなきゃ…と,大きく深呼吸をすれば,後ろが気になるもなんとか目の前にツラツラと書かれるホワイトボードマーカーの文字を目で追う。
戦国時代を生きた織田信長の話だろう。「1534年に尾張国で…」と呟く教科担任をいいBGMに,志望校の過去問を解いていく。授業で扱っている範囲なんて,とっくのとうに履修し終えてしまった。
すると,とんとん,と後ろから肩を優しく叩かれる。
一目惚れしたあの女の子だろう,と思いながら恐る恐る後ろを振り向けば,丸メガネをかけて申し訳無さそうに眉を下げているではないか。
メガネのテンプルに指先で触れながら,小さく口を開いた。
「なぁ,すまねぇがあの文字なんて書いてあるか教えてくれないか…?どうも見えづらくて…」
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