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日本史と世界史,好きな方を選ばなければならない必須科目の1つだ。成行きで日本史を選んだが,移動教室がある事は知らなかった。
移動教室の有無を知った瞬間,心の底から絶望した事を鮮明に覚えている。
黎大学附属玉結中学・高等学校には4つの校舎が設けられている。
正門から最も近い進学コースの第1棟
少々離れたところに建つ,大きな図書館がある通称『新校舎』特進,一貫コースの第2棟
食堂や合宿所,体育館にプールがついた第3棟
そして,渡り廊下を使わなければ行くことの出来ない,旧校舎と呼ばれるグローバルコースの第4棟。
週5回,薄汚い第4棟まで行かなければならないのだ。
新校舎から旧校舎…それはそれは距離がある。
渡り廊下が2階にしか無いものだから,海墨達の教室がある4階から階段を駆け下り,グローバルコース…IX組の教室まで階段を駆け上がらなければならない。正直面倒くさすぎる。
「移動嫌なんだよね…なんで日本史選んだんだろ俺…」
はぁ…と再度ため息を吐いて机の中をまさぐる。日本史日本史…薄暗い机の中で特徴的なオレンジ色の表紙が一際目に刺さる。
そいつを取り出し手に取れば,隣で立ち止まり健気に待っていてくれた紫焔に目配せをする。
ありがとう,という意味だろう。
「まぁでも,俺は海墨との移動教室楽しいけどな!」
海墨が歩き出すと同時に,彼はそんな言葉を口から漏らした。
何故かこっぱずかしくて此方の口角が無意識のうちに上がってしまう。
「俺もだよ」
そう答えれば教室を出て階段を下りる。
横に並んだ5人組が一気に歩けそうな程に広い分,段が若干多い。
さほど急では無い階段を2人で下り,2階まで気だるげな足で向かう。
「それでさぁー?昨日うちの猫がネズミ咥えたまま家に入ってきたンだけどさぁ」
「さっきその話聞いたんだけど?」
他愛のない会話を進めながら渡り廊下を駆けて階段を上り右へ曲がれば,グローバルコースの教室が見えてきた。
窓越しに見える教室には…ちらほらと別れて座るグローバルの生徒。
食べかけのお菓子や棚の上に陳列された漫画たち,ゲーム機なんかもそこら辺に転がっている。
旧校舎は先生が全くと言っていいほど来ない為,色々とやりたい放題なのだ。
「ほんと,いつ来ても汚いとこだよな」
「そーだなぁ」
そんな会話を交わしながら教室のドアをガラリと開ける。
途端,喋り声はシンと静まり,生徒が皆音のした方を向いた。
余所者を見るような,心に刺さる痛い視線。
そんな中,こちらを見ずにスマホを指先で弄んでいる女子高生を見つけた。
ふわりと広がる白い髪の毛,紫色の瞳。
その髪型は…メンダコを彷彿とさせるような。
友達に声をかけられ,目だけを侵入者へ向けた。
彼らと同じ,ナイフのように切れた鋭い眼差しを。
瞬間,海墨と目が合った。
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