何処か哀愁漂う彼の背中を見かねたとある男子高校生が,空気を揺らさずに海墨の背後に立つ。

獲物に飛びかかる猫のようなポーズを取れば,銀色のイヤーカフに付属した細いチェーンを揺らしながら頬杖をついてる彼の右肩を勢いよく叩いた。


「みっすーみー!なーに黄昏れてンだよっ!!」


すぱぁん!とワイシャツの下に潜む白い肌が叩かれ少々痛そうな音が広がる。

突然の痛覚に顔を歪めるも,叩いてきた張本人を視界に入れれば若干口角が緩んだ。


「別に黄昏れてなんかないさ,紫焔。それよりも肩が痛いんだけど??」


紫焔と呼ばれたその男…家の立地は正反対なものの,高校で初めて出会ったとは思えないくらい仲のいい友達,奥村おくむら紫焔しえんだ。

特進コースの特待生として入学した紫焔は,男女から好かれる人格者で海墨のよき理解者。


「元気なさげだろー?そん時は叩いて喝入れすんだよ!」


謎の持論を持ち出してくれば,海墨を元気づけるかのように再度肩を叩く。

先程よりも威力は弱いが,流石に痛い。肩に大きな紅葉型が出来たらどうしてくれるんだよ…と若干笑いながら呟いてみた。


「はいはいありがとうね,それで?何か用があって来たんじゃないの?」


彼か右肩を叩く時は,大体何か用事があるのだ。

頬杖をついていた右手を机の上に乗せて紫焔の瞳をじ…と見つめた。


するとどうだろうか,きょとん,とした顔で海墨を見つめれば,彼の左腕の中に抱えてあったあるモノを見せる。

オレンジ色の表紙に明朝体で大きく書かれた黒い文字…。


「次日本史だぜ?グローバルの方まで移動だぞ」

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