特進くんの憂愁

桜の淡いピンク色が青空に良く映える今日。

絹のように肌触りのいい春風が頬を撫でては,桜の花びらを纏いお洒落を楽しんでいる。

いかにも,春…という感じがして心が踊り出してしまいそうだ。


黎柊れいしゅう大学附属 玉結たまむすび中学・高等学校の入学式が終わりはや数日,やっと先輩になった事を実感し始めた。

去年まで使っていた教室,苦楽を共にした仲間の大半とは離れ離れになってしまったが,心はつながっている…はずなので良しとしよう。

中学3年生に上がる時はクラス替えなど存在しなかったものだから,約2年ぶりに経験するクラス替え。やはり,仲の良い友と離れるのはどうも居心地が良くないものだ。


数日前とは違う,窓外の景色。


2年目の高校生活,平穏に行ければそれでいい。なんの事件にも巻き込まれず,勉強も運動も人並みに…と行きたいとこだが,勉学だけは常に励まなければならない。

自分の社会的地位や周りの視線…父親の職業柄,自分も彼の隣に胸を張って立てるような人間にならなくてはいけないのだ。

高校を卒業したら附属大学の法学部に進学,その後は警察学校へ入学し晴れて警察官へ…

正直,自分の人生なのだから敷かれたレールの上なんて歩きたくなんてない。


本当は,イラストレーターやシナリオライター等の自分のアイディアを生かせる職業に着いてみたい,だなんて叶いもしない淡い夢を抱いてしまう。


行き場のない本音を吐き捨てるように大きくため息をつけば,海墨の雲がかった心内こころうちとは裏腹に,雲一つない蒼穹を仰いでは憂鬱そうに頬杖をついた。


もういっそのこと,人生を狂わせるような恋でもしてしまおうか。

だなんて考えながら,自由に舞い踊る桜の花びら達を羨ましそうな,何処か哀しげな光を孕んだ深緑の瞳で,じ…と見つめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る