第2話 頂上の野営地

「ウノフ早いな!もう少し寝てて良いぞ」

「いや、起きる・・・お前は?」

「おいおい、寝惚ねぼけて居るのか?」

 見覚えの有るような、無いような若い男が苦笑してる。



 確かに見覚えはある?私が冒険者を引退した切っ掛け、死んでしまったが気の合う相棒の顔に酷似こくじしてる。


「起きたなら、さっさと朝飯食って峠を降りるぞ!」

 まだスッキリしないが、うながされるままスープのカップを受け取り、息を吹き掛け飲んだ。


「旨い!お前料理の腕だけは、相変わらず最高だな」

 懐かしい相棒のスープの味に思わず涙がこぼれた。

「ウノフ?お前変だぞ?泣くほどのもんか?昨夜の晩飯の残り温めただけの手抜きスープだぞ」


 携帯食の固パンをスープにじゃぶじゃぶ浸けて、もそもそ食いながらジェフが言った。

 そうだ!死んだはずの相棒の名はジェフだった。

「ジェフ、峠を降りるって、ここはどこだ?」

「おいおい?ウノフ?「国境フリーのシルバーランクになった『メット王国』に行こう!」って言ったのはお前だろ?調子が悪いなら引き返すか?」



 ・・・メット王国の国境くにざかい峠か、降りた所の森は・・・確か・・・トレントの森!!

 普通は街道を北上してメット王国に行く、私は、私の我が儘でトレントの森経由の道を選んだ。


 いや!!トレントの森に行ったのは、カッパーランクの時だ!!

 その時相棒が瀕死ひんしの重症を受けて、私が担いで帰還中息を引き取った。

「ジェフ!トレントの森は危険だ!!引き返そう!」

「ウノフ?トレントを討伐してメット王国冒険者ギルドに売るって言ったのお前だぞ」

「トレントより固く動きが速い、エルダートレントの巣がある!今の私達では勝てん」


「今日のお前は変だ・・・俺も帰るのは賛成だ、ウッドウルフの毛皮や牙で、充分今回の遠征は儲けになる」

「悪いな・・・気紛れな我が儘言って」

「良いって事よ!お前の勘は鋭い、ウノフの勘のお陰でシルバーに昇級出来たようなもんだから、これからもお前の勘を頼りに冒険しような!」


 今はまだ生きている大切な相棒が、私を信じて掛けて来る優しい言葉にまた涙ぐんだ。

「おい?ゴミでも目に入ったか?」

 情け無い!歳を取ると涙もろくなる?私は老衰で亡くなったはず・・・忌の夢なら覚めないでくれ!

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