第51話 無双、女神様。王族始末記

「凄いな、女神様。みんな道路にひざまづいてるよ」


「五体投地してるやつもいるのじゃ」


 ここは、王国王都。王族許すまじ、ということで、俺、フレイヤ、女神様、ガルムで乗り込んだ。


 で、いきなり女神様が封印された魅了を解き放つ。すると、どうなるか。それが冒頭だ。魅了というか、崇拝、篤信、敬神の精神を植え付けるというか。


「これは魅了ではありませんわ。神があまねくもっている魅力というものですの」


 ということは、神様なら誰でも信者ホイホイできるっていうことか。



「止まれ!怪しいものども……ああ、失礼いたしました!どうぞお通りください!」


 道路にひれ伏す城の門番。後ろを見ると、延々と連なる即席信者の群れ。この光景は城に入っても続く。すべてのものが女神様を崇め奉ってんだ。


 もうね、彼らが顔を上げると頬が赤い。上気してる。目はランランと輝き、涙ぐんでるやつもいる。口は半開き。その口からは女神様を崇拝する文句がダダ漏れ。


「扉を開けなさいな」


「畏まりました!」


 即席信者の大集会を背景に城の大きな正門が開く。

 城のエントランスに入ると、ひれ伏す人の群れ。


「そこのもの。王の間に案内しなさい」


「はは!ありがたき幸せ!」


 こいつも女神様から指名を受けて感激の涙をたたえているよ。


 ぐんぐんと奥に向かっていき、やがて、立派な扉の前に至った。


「ここでございます!」


 と案内のものが言うと、扉を開く。


「何者じゃ!無礼者……ああ!女神様でいらっしゃいますか!お会いできて至上の歓びです!我々は貴女様の敬虔なる信者でございます!」


 女神様が室内に現れた瞬間に眩しいほどのオーラが室内を照らし尽くす。王の間のすべてが一斉にひれ伏す。



「本日は少し聞きたいことがあって伺いました」


 この部屋で一番立派な椅子に座ってたものが

 床にひれ伏して叫ぶ。


「は、なんでもおっしゃってください!」


 こいつが王か。


「何やら、この城では別次元のものを異次元召喚しているというお話ですが」


「あ、いえ、そんなことは」


「別次元の者となると、流石に私どもとは管轄が違います。それにそのような理を狂わすようなことしては主上様も心を痛めております」


「は」


 ひれ伏す王(仮)から滝のような汗が。


「どうなのですか?」


「い、いえ、め、滅相もございません。何か誤解がございますようで……」


「実は、城によって召喚されたと証言するものを私は10名ほど保護しております」


「え?」


「名前をいいましょうか?」


「あ」


「これが次元を越えた大罪という認識がありますか?」


「え……いや、本当に誤解なんです。これもみなこの世界のためと思ってのことなんです!」


「聞き苦しいですわ。一連の行為、天への醜悪な反逆であると認定しました」


「ひっ!」


「ですが、主上様は実にお優しい方です。死をもって償えなどとはおっしゃりません」


「は、ありがとうございます!」


「しかし、鉱山奴隷とかではあまりに罪が軽すぎますよね?」


「え」


「ですので、黄泉の国の審判官を呼びたいと思います。イザナミ様!」


 途端に部屋の中央に黒い霧が立ち込め、霧が晴れると美しい女性が立っていた。黒目黒髪のショートヘアに黒いスーツ。宝塚の男装の麗人のようなタイプだった。


「お久しぶりです。イザナミ様」


「ご無沙汰いたしております、エカテリーナ様」


「お忙しいところお御足を煩わせましたのは、この者達の件ですの」


「おや、魂のどす黒いものたちですこと」


「彼らは異次元召喚をしましたのですよ」


「なんと!そのような大罪を!」


「ええ、私共もほとほと困り果てておりますのよ」


「ああ、ああ、それは途方にくれますわね。命をもって償うということでは軽すぎますものね」


「そうでしょう?ですので、黄泉の国の審判官である貴方様のご判断を仰ぎたく存じまして。できる限りご慈悲のある裁定を」


「そうですわね……100年ほど前にも同様の事件がありまして。その前例に習おうかと思いますわ」


「どのような?」


「煉獄の炎というものがあります。黒ぐろと汚染された魂を、永遠に等しい期間、燃やし尽くすのですわ。精神は正気のまま、気も狂わせてもらえないまま、炎による苦しみを正面から受け止め、苦しみ抜き、体が燃え尽きても再生して何度も何度も煉獄の炎に焼き尽くされて苦しみぬき、気が狂ったほうがましなまさしく地獄の苦しみによって魂が浄化されて初めて転生するというものです」


「まあ、転生を目指すというのですね。やはり、イザナミ様はお優しい。なんと慈悲深い裁定でしょう」


「対象者は……すぐにわかりますね。対象者は黒く光り輝きます」


 すると、5名のものの体から黒い光が発光した。


「い、いや、ち、違う……」

「わ、私はわ、悪くない……」

「わ、わ、悪いのはお、お、王よ……」

「わ、私はい、言われただけ……」

「わ、わ、私はな、な、何もやってい、いない……」


 真っ青の顔をした男3名と女2名。

 床にうずくまり、ぶるぶる震えている。

 後から聞いたところによると、

 王、女王、王女、宰相、王国軍魔導師長であった。


「「「ウギャー!」」」


「あらあら、相当罪深いのですわね。黄泉の国に行く前に燃え始めましたわ」


「「「ウギャー!熱い!体が燃える!助けてくれ!」」」


「ああ、その苦しみ。いいお声ですこと。この声を数百年以上に渡り鑑賞できるのですから、誠に重畳」


「「「ウギャー!」」」


「イザナミ様、ご足労いただき誠にありがとうございました。実は私、とあるダンジョンでカフェのママをやっておりますの。お時間のご都合のよろしいときに是非いらしてください」


「あら、それは嬉しいお誘いを。このものたちを黄泉の国につれていきましたら、お伺いしたいと思いますわ」


「場所は天界メールにてお送りしますからね」


「了解いたしましたわ。それでは、ごきげんよう」


「ごきげんよう」


「「「ウギャー!」」」


 ◇


 天の奇跡の起きた日。王族は天の怒りに触れた一族としてこの地から追放された。


 かわってこの地を治めることになったのは教会であった。もともと漠然とした神を崇めていた教会。ここに民衆が押し寄せたのだ。


 女神様降臨を目の当たりにした民衆は二つの反応を示した。


 一つは単純なる女神様への憧憬。女神様が王都に来ただけであっという間に大群衆が押し寄せた。元々この世のものとは思えない美貌の持ち主。そこに天界パワー満載の魅惑オーラがのっかる。王都で女神様の魅力にアテられ、その熱狂がまだ続いている。


 もう一つは天界への畏れ。王族の天をも恐れぬ所業を裁くために女神様が降臨したと知って慄いたのだ。(注:降臨したわけではなく、たまたま女神様は天界から追放処分を受けていたのであるが)

 その所業とは異世界人の召喚であり、自分たちもそれを歓迎し熱狂していたわけで、


「自分たちも裁かれるのではないか」


 と縮み上がった。



 女神御降臨の栄誉に浴し、召喚に熱狂した民衆と許しを請うために必死になっている民衆が女神を怖れ崇め奉るために教会に押し寄せた。


 何もしなくてもご浄財の集まってくる教会。ちゃっかり教義を書き換え、女神様を崇めることにしてしまった。


 これは元々この教会の属していた宗派との軋轢を生むこととなる。


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