第50話 勇者パーティ、派遣される2

「え、ここはどこ?みんな、起きて!」


「あ、なんで?」


「怪しい男と猫が出たところまでは覚えてるんだけど……」


「やあ、みなさん、こんにちは」


「あ、あの怪しい男!」


「まあまあ。俺も同じ召喚者なんだ。よく見ろよ。黒目黒髪。日本人だよ」


「みんな、騙されないで。魑魅魍魎の類かも」


「あーあ、信用されてないな」


「ダンジ、腕輪したままなのじゃ」


「あ、そうか」


「『解除』なのじゃ」


「え……何?私、どうしてたの?」


「なんだか、急に心が軽くなったわ」


「あのね、君たちの腕輪。拘束の腕輪。別名奴隷の腕輪」


「拘束?奴隷?」


「ああ。今、回路を切ったんだが、もう一回オンにしてみるからな」


「ああ!」


「よし、じゃあオフ。わかったろ?」


「なにこれ。自分の意思とは違う何かにコントロールされてる感じ」


「まさしく、奴隷の腕輪さ。おまえら、王国にはめられたんだよ」


「!」


「わかったか?じゃあ、いいかな。美也たち、中にはいってこいよ」


「えっ、雲母君たち!」


「それと、こちらは前々回の召喚者である相馬美也。で、俺は前回の召喚者である森野弾児。こっちの美形はフレイヤ。あ、エルフの姿に変身してるだけで本当は魔猫だけどな」


「ええっ!」


「おまえら、雲母たちに感謝しろよ。おまえらを助けてくれって俺達に頼んだんだからな」


「……」


「まだ理解が追いついていないか?まあいい。腹減ったろうから、飯食うぞ」


「わあ、それってマジックバッグですか?」


「ああ。俺はここのダンジョンで食堂を経営していてな」


「食堂ですか?ダンジョンで?前回の召喚者って、確か召喚に失敗したとかって聞いてますけど……」


「ああ。腹立たしいことに召喚自体は成功したんだが、俺はこの森に召喚されたんだよ。まあ、軽食で悪いが、食べてくれ」


「ありがとうございます……えっ、何このハンバーガー!ムチャ美味しい!」


「ホント!小麦の香り漂うハード系のパンズに甘辛ソース、新鮮な野菜にジューシーなパティ!」


「すっごいコクがあるのね。でも、しつこくないって不思議」


「このリンゴジュース?もすっごく美味しい」


「こんな甘くて爽やかなジュースってこちらの世界では味わったことない」


「ていうか、パティのお肉、臭くない」


「そうだよね。王国のお肉って半分くさってるんだもの」


「気に入って頂けたかな?俺の食堂では日本のメニューを多数再現しているからな」


「え、そんな食堂があるわけ?ああ、行きたい……」


「残念ながら、今のお前らではムリだ。10階層にあるんだ」


「10階層!」


「ちなみに、ここは5階層さ。ダンジョン協会っていう、ダンジョン側の施設」


「ダンジョン側?」


「ダンジョンが経営していると思ってもらえば」


「はあ。でも5階層ってかなり深いんじゃ」


「おまえらは結界に守られているからだ。魔素の影響から逃れられている。いいか、一瞬だけ結界をはずすからな」


「「「うっ!」」」


「わかったろ。5階層がどれだけ濃い魔素濃度か。今のおまえらの実力では、すぐにへばるぞ」


「ああ、わかる。3階層でもちょっときつかったもの」


「ちなみに、雲母とかの男連中は5階層に住んでいる。美也の住まいは10階層だ」


「ええ?」


「おまえら、雲母たちをどう見てた?ヘタレと思ってたろ?」


「いえ……」


「あのな、現状、奴らはおまえらより実力は上だから」


「!」


「まあ、それは横に置いていて、おまえら、よーく考えてみろ。俺達、どうして召喚された?」


「王国を救ってくれって」


「俺達の同意無しで無理やりな。これ、誘拐だろ」


「……」


「でな、魔王をやっつけてくれ、とか言われたろ?」


「ええ。残忍なやつだって。王国が死に瀕しているって」


「私が城から逃げたのは、一つには偶然拘束の腕輪が外れたからよ。でね、私はいろいろ調べたの。魔族の国って日本なみに民度が高くて平和な国みたいよ。魔王だって穏やかで賢王って呼ばれている」


「ええ?聞いていたのと真逆」


「魔王に憎しみのあるのは城と王都ぐらいなもの。確かに私は魔族の国に行ったことはない。でも、魔族の国が危険だなんて一方的に言われてただけでしょ?」


「確かに」


「それに、今なら判断つくでしょ。王、女王、王女。どういう人だと思う?」


「ああ。王も女王もぷっくり太っていて女王も王女も金銀宝石で着飾って、困窮してる感じ全くないわ」


「王様はすっごく傲慢な感じがするし、女王は光り物にしか興味がないし、王女は酷薄っぽいよね」


「私には認識阻害のスキルがあったから、彼らの会話をこっそり聞いていたのね。そしたら、失敗しても成功しても私を殺すつもりだったのよ」


「成功しても?魔王を討伐したってことでしょ?」


「国民に人気が出るのを阻止したいからだって」


「ええ?」


「私は使い捨て。だから、私は城を抜け出した。すぐに城は私に追手を出したわ。危ないところでこのダンジョンの人たちに救われたのよ」


「僕たちもそうだよ。実は馬越に鍵開けスキルが発現していて、それで腕輪を外すことができたんだ。それからは、各自の発現していたスキルを使って城を脱出。困っていたところを偶然ダンジさんたちに救われたんだよ」


「そうだよ。馬越には他に隠蔽スキルが発現していて、それで姿を隠して城を探検したんだ。すると、ある部屋でオレ達のことを話していたらしくて」


「ああ、驚いたよ。ボクたちが使えないなら処刑するって言ってたんだ」


「ええ?」


「ついでに言うと、君たちも使い捨てぐらいにしか思われてないよ」


「マジ?」


「マジ」


「そうよね。信用せざるを得ないわ。この腕輪……」


「ホント。つきものが落ちたって感じがする」


「まあ、しばらくダンジョンで生活してな。少し訓練すれば、5階層でなら大丈夫だろ。あとはダンジョンを出ていってもいいし、そのまま10階層を目指してもいいし」


「ああ、あとお風呂とかトイレとか日本以上に完備してるわよ。あとで見てご覧なさい。高機能で驚くから。髪とかツヤツヤしっとりになるわよ。ほら、私の髪」


「美也さんがこの部屋入ってきたときに最初に目についたのは、髪の美しさだったのよね」


「ほんと。全部キレイなんだけど、特に髪がキレイ」


「絶対、ここに住みたい」


「お風呂入って、美味しいご飯欲しい」


「で、10階層に行きたい」


「私も」


「あとな、住民はいろいろなのがいるから。まあ、ゆっくり馴染じむこったな」



「それにしましても、異世界のものを召喚するなど天界的には見逃せないですわ」


「女神様、やっぱりですか」


「ええ。わたくし、外界のことにはあまり深入りしたくはありませんが、こうまであからさまですと流石に」


「俺的にも非常に腹立たしいしな」


「それに天界がこのことを知れば、少々の騒ぎではおさまりませんの。王国が殲滅されることぐらいはしてきますわ。それは少々あれですので、僭越ですがわたくしが動こうと思いますの」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る