第37話 飯は不味かった 人間の街へ行ってみる2

「ところで、ダンジよ。街の人の言葉はわかるかの?」


「ああ、それだよ。人の会話に耳を傾けてるんだが、さっぱりわからん」


「多言語翻訳スキルが備わっているはずじゃ。まだレベルが低いのかもしれんが、そのうちわかるようになると思うのじゃ」



 市場では特別欲しいものはなかった。

 欲しいものはすでにフレイヤに頼んで買ってきてもらってあるからな。


「こんなもんかなー」


「ダンジよ。特別なものが欲しいのなら、薬師の薬局や冒険者ギルドで頼んで見る、という手もあるのじゃ」


「ああ、そういや冒険者ギルドのギルマスが俺たちの店に通ってるな」


 俺はあんまりファンタジーを知らないが、それでも冒険者ギルドぐらいは知っている。腰まで伸ばした銀髪の女剣聖がドラゴンを倒していばるところだろ?


「アホ言うな。人間がましてや女がそんなに強いわけないわ」


「なんだ?人間差別か?女性蔑視か?」


「女性蔑視?魔物の女は強いぞ。というか、魔物に性別は関係ないの。じゃがの、そもそも人間が脆弱じゃ。さらに人間の女は力の面では男より見劣りするぞ。まあ、魔法に目覚めた女は男よりイケてる場合が多いらしいのじゃが。あと、口喧嘩なら女は種族を問わず結構やるぞ」


 ああ、それは知ってる。

 口では男は女に勝てない。

 少なくとも俺は。



「冗談はともかく、冒険者ギルドってむさい男が多そうじゃないか。ギルマスだって、見た目山賊だろ。隠蔽魔法をかけて窓口に行くわけにはいかないだろうし」


「じゃあ、薬師の薬局じゃの」


 ということで立派な薬局についた。

 石造りの3階建てでちょっとした銀行程度の大きさはある。

 立派で重厚な木製両開きの前には靭やかな感じの門番が立っていて

 にこやかに俺達を招き入れてくれる。


「いらっしゃいませ。薬師ギルドでございます」


「え?薬師ギルド?」


 お?言葉がわかったぞ。

 薬局じゃなくて、薬師ギルド、薬師の本拠地じゃねえか。そりゃ構えからして立派なはずだわ。


「翻訳スキルが役を全うし始めたかの?薬局もギルドも似たようなものなのじゃ。ちょっと窓口で聞いてみよ」


「ああ」


 入口を通り抜けると正面には窓口がいくつか並んでおり、

 美形女性が来客に対応している。


 空いている窓口にむかい、俺はダメ元で


「いろいろなハーブとかを探しているんですが」


 普通に話してみた。


「ハーブと申しますか、当ギルドで扱っている薬草の一覧ならば、図入りでこの本に乗っていますので、ご覧いただければ」


 おお、ちゃんと伝わっている!


「ご丁寧に、ありがとうございます」


 なかなか気がきいていた。


 俺はパラパラとページをめくっていく。

 正直、なんの草木なのか見当がつかない。


「お?」


 俺はあるページでピンとくる植物が目にとまった。


「これ、ひょっとしたらカカオの実か?」


 表皮は赤色のフットボール型。しばらくすると茶色に退色し、実を割ると白い果実の間に小さな種が並ぶ。実は淡い甘み、種はひたすら苦い。カカオっぽい。


「おねーさん、このセオアロマって実なんですが、見せて頂くわけにはいきませんか」


「ああ、それはかなり珍しい実でして……えっと、月1で南の島からやってくる商人が販売してますね。この薬局に行けばあるかもしれません」


 綺麗なおねーさんは地図を書いてくれた。


「どうもありがとうございます」



「ダンジ、その実っていいもんなのか?」


「まだわからんが、これがカカオの実だとすれば、スィーツの王様だぞ」


「「「スィーツの王様?」」」


「ビターで高貴な香り、ほんのり苦くてとろけるような甘さ。それがチョコレート。カカオの実から作るスィーツだ」


「ああ、ダンジがそういうのならば間違いがありませんわ。早く薬局へいきましょう!」


「だど!」


 ◇


「セオアロマの実ですか?残念ながら、今月分は薬にしてしまいました」


「薬ですか」


「ええ。疲労回復、滋養強壮に優れた効果を示します。不老長寿の薬と勘違いされている方もいらっしゃるぐらいです」


「手に入りませんか」


「来月以降でしたら、余分に買うことはできますよ。ただ、一つ50万pしますが」


 1pはだいたい1円程度の価値がある。

 だから、カカオの実(仮)は50万円だ。


「5個お願いします。前金は必要ですか?」


「手付として1割頂いておきましょう」


「魔石でもいいですか?」


「結構ですよ」


「ではお願いします」


 ◇


 さて。

 用がすんで、街をぶらつくことにする。


「なあ、街の食堂にいかないか?そろそろ腹が減ったぞ」


「うーむ、あんまりおすすめはできないのじゃ。はっきり言うと、貧相で不味いぞ?」


 そう言われると怯む俺。

 でも、この世界の人間の基準が知りたい。


 ◇


「うわっ」


 食堂で注文した料理を見た俺。

 絶句した。


 頼んだのは、ステーキとジャガイモのスープ。

 それと黒パン。


 まず、ステーキが臭い。塩漬け肉の塩を取り除いたものだが、半分腐っている。テーブルに置かれた瞬間というか、食堂全体に腐った肉の臭いがする。


 ジャガイモのスープも臭い。干し肉が浮かんでいる。干し肉も半分腐っている。


 黒パンはひたすら固い。多分、ライ麦パンだとは思うのだが、焼いてから数日はたっている。酸っぱくてちょっぴり苦くて、とにかくカチンカチンに固い。


「こんなのどうやって食べろっていうんだ」


「パンはの、ステーキの肉汁とかスープにひたして食べるのじゃ」


「ああ、ムリ。ギブ」


 俺は殆ど手につけることができなかった。


「おまえら、ちゃんと食べてるんだな」


「食い物を無駄にすると天罰が下るぞ」


「そうですわ。主神様もお嘆きですよ」


「んだんだ」


 駄目だ、こいつら。

 つきあえねえ。


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