6 人間の街へ
第36話 人間の街へ行ってみる1
「なあ、俺も人間の街を見てみたいんだが。まだ魔素のコントロールできてないのか?」
先日、人族の人が初めて来店した。
なかなかナイスガイだったもんだから、俺も人族の街に興味が出始めたのだ。
「うーむ、まだ未熟じゃがちょっと訓練すれば大丈夫じゃろ」
「そうか!じゃあ、訓練すっぞ」
「それにしても朝っぱらからカレーの匂いがしてくるの」
今朝の朝ご飯はカレーライスだ。朝っぱらかカレーかと言われるかもしれないが、昨夜カレーを作ってあまりに美味しかったもんだから、俺のお腹はカレーになっているんだ。
ああ、カレー粉は日本のものだが、何しろ具材が魔牛だ。ビーフカレーとしては最上級だろう。日本で出したら一杯5千円でも行列ができそうな味だ。
しかし、カレー粉は補充が必要だ。この世界にあるのだろうか。様々なスパイスを配合しなくちゃいけないとしても、一度人間の街に行って探してみたい。
俺が人間の街を見たくなったのは、店に人族が来店するようになったこともある。俺も魔人化しているとはいえ、人族だからな。
しかし、その魔人化が問題だ。未熟者だから体内の魔素がダダ漏れしている。魔素は普通の人間には害毒で、俺が地上に行けば歩くダンジョンになってしまう。魔素を撒き散らすわけだ。バタバタと人が倒れる未来が見える。
だから街に行くならフレイヤの言う通りに魔素の制御は必須なのだ。
◇
「これなら、大丈夫じゃろ。店はどうするのじゃ?」
「しばらくはネタに困ることはなかろう。いざとなれば調理魔道具が活躍してくれるしな」
「よし、行くか」
「オデも」
「おお、ガルムもか、いいぞ」
「私も行きたいですわ」
「女神様もか。うーん、女神様は美しすぎてなー。大混乱が起きそうじゃないか?」
「うむ。間違いなく大混乱になるじゃろ」
「だよな。ただでさえ、エルフに変身したフレイヤがいるからなー」
「問題ありませんわ。存在を薄くしていきますわ」
「あとですね、あまりしゃべらないように。女神様、声も素敵すぎるんですよ。魅了のスキルは封印してますけど、素で魅惑を振りまいてますから」
「わかりましたわ。隠蔽スキルで大人しくしてますわ」
「申し訳ないですね。女神様は人間基準では美しすぎますから。ソースは俺」
「まあ」
「ガルム、おまえもだぞ」
「オデも?」
「隠してるつもりだろうか、おまえの死の波動はおっかないぞ。街の人がショック死して街が恐慌に陥りかねん」
「……ちょっと訓練してくるど……」
「じゃがの、ダンジ、お主はまだ8階層までしか行っておらん。まずは、1階層まで走破せよ。そうすれば、次からは転移魔法で入口までいけるからの」
「みんなは1階層まで直行?」
「そうじゃ。じゃから、お主、ちょっと修行してまいれ。心配ないと思うが、ハウンド・ドッグと魔猫を護衛につけてやる。ちょっと行ってこい」
ということで俺はサクッと入口まで行ってきた。俺にも気配を消すスキルがあるし、敵を感知することもできる。まあ、問題なく転移魔法で10階層に戻ってきた。
「よし、では4人で街へ行くぞ」
向かうはダンジョンから一番近い街レンヌ。
「「「おー」」」
◇
全員でダンジョンの入口に転移して、外に出た。鬱蒼とした森が広がり、ダンジョンの中よりも暗い。
「これが外の世界か」
「どうじゃ?」
「うーん、森とあんまり変わらんな」
「こっちも森じゃからな。では街に向かうが、お主ついてこれるか?」
「ゆっくり頼むぞ」
フレイヤの場合、街まで1時間とのこと。俺なら1日はかかると言っていた。しかし、俺も体力が増えている。今なら半日はかからんだろう。
で、向かうんだが、いや、速すぎる。自転車を速めに漕いだ感じ。どうだろう。時速30kmは行ってそうだ。結局2時間ちょっとでレンヌ街についた。
「お主にしては頑張ったではないか」
「ハアハア。全力すぐるぞ」
「体力は長足の進歩をしておるの。この分なら魔力もいい感じになっておるな」
街道を進んできたんだが、道が悪い。森の中は道がないに等しい。森を出ても草原みたいなところを爆走していく。
街の外壁が見えてきたあたりでようやくちゃんとした道になってきた。往来する人もそこそこいる。走るのに必死であんまり観察できないが、西洋人と東洋人の中間のような風貌をしている。
背はあまり高くない。俺の身長は175cm程度あるが、全員俺よりも背が低く見えた。
俺等は存在を薄くしているから人に気づかれない。ただ、通り過ぎるときに軽く風が起こるようで振り返って彼らを見ると、キョロキョロしていた。
レンヌ街は高い石の外壁で囲われている。高さは10mはありそうだな。
地球基準だと、銃火器が進歩して街の外壁はどんどん不要になっていった。大砲で外壁はすぐに壊されるし、そもそも外壁を越えて弾が飛んでくる。
街は生活の拠点で民間人が大量にいる。そんなところを戦場にされたくない。だから、街には外壁はないし、攻城戦ではなく、野外戦で決着をつけたがる。というか、攻城戦になったら市民を含めて全滅を覚悟する。
「この外壁はの、もっぱら魔物や獣対策じゃの。あと、不法滞在者対策。お主のいうように戦争になったらあまり意味のあるものではないの」
この世界では戦争は魔法の撃ち合いから始まる。遠距離からズドンだ。結界が攻撃を防ぐが、結界が破壊されれば外壁はあっという間に壊されるし、そもそも外壁を越えて魔法が市街地に降り注ぐ。
幅・高さともに5mほどの門が入口だ。中に入ろうとする人たちで列ができている。俺達は隠蔽スキルで存在をぼかし、列の横をこっそり通ってレンヌ街に入る。
街は白っぽいしっくい壁にオレンジ瓦で統一されていた。道は石畳だ。滑るし、凸凹しているので微妙に歩きにくい。
道行く人々はやっぱり西洋と東洋の中間だ。日本人よりもはっきりとした顔立ちだが、柔かさが残っている。地球で言うと中央アジア人か?背は低めだが、顔が小さく手足が長い。モデル体系の人が多い。平均的日本人の俺はちょっと凹む。
あと、街が少し臭い。馬車のせいだと思う。田舎の香水ってやつだ。下水道の臭いもあるだろう。汚水・排泄物処理が追いついていない。残飯の臭いもする。
「せっかく街に来たのに、つまらんのう。妾は注目されたいんじゃが」
「俺が嫌なの。美女二人も引き連れて大騒動になったら困るし。ガルムも頼むよ。子犬のままをキープ。死の波動とか出さないように」
「わかっただ。まかせるだ」
胸を叩いて偉そうなガルムだが。訓練の成果はあったのかな。
「で、どこに行くのじゃ?」
「まずは市場だろ」
「うーむ、今日はやってるか?週に1回しか市場はやってないのじゃ」
「えー、それ早く言えよ」
日本だったら毎日営業だよな。しかし、この世界ではそこまで食材の流通量が多くない。そのかわりというか、パン屋や屋台は毎日営業しているらしい。
市場に行くと、ラッキーなことに営業していた。
「やっぱり、日頃の行いがいいからな、俺って」
「つまらんことを言うでない。妾の行いがいいからに決まってるじゃろ」
「オデのおかげだべ」
「いえ、
なんで、見栄を張りたがる?
ガルムもいい年して少しは落ち着こうね?
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