森のダンジョン食堂～ドラゴン定食始めました

第32話 新メニューと店員さん増強

「おお、今日から新メニューが！」

「ええ。今回は鶏系の料理を加えました。ただ、卵は外の世界の鶏をダンジョンに持ち込みました。鶏肉はコカトリスですね」

「コカトリスですか。あれは、すばしっこくて捕まえるの大変なんですが」

「ええ、ちょっと修行しまして。毎日狩りに行ってます」

「では、さっそく。まずはもも肉のソテーと卵は外の世界の鶏ですか」

「この卵がまた美味しいんですよ。ソテーに目玉焼きでもつけてみませんか？」

「では、それで」

「おまたせしました」

「うーん、いい香り。では頂きます……相変わらず、ここのお肉はナイフを入れただけで肉汁がすごいですね……ああ、これは美味い。芳ばしい甘辛いソース、引き締まった肉、風味豊かで濃厚な肉汁、素晴らしいです。コカトリスの肉ということですが、随分と味がひきあげられています」

「ありがとうございます。目玉焼きはどうですか」

「……こんな簡単な料理なのに、卵の素性がいいのでしょうか。半熟の黄身は実にコクがあって、しかも卵特有の臭みがありません。これまた素晴らしいですね」

「こんなものもあるんですよ。親子丼です」

「親子？」

「鶏の卵とコカトリスの肉。厳密には親子ではありませんが」

「ああ、なるほど。下にある白い穀物は？」

「米です。多分、王国にはこの穀物は見当たりません」

「ふうむ。では頂きます……これはまろやかで深みを感じます。調味料は醤油ですか、これもいいですね」

「ありがとうございます。今後も、メニューを増やしていきますので、よろしくお願いしますね」

「いや、こちらこそ。しばらくは通い詰めですね」

　鶏と丼メニューを開放したことで、ますます忙しくなった。店を中心として街が形成されつつある。そして、街の人々は毎日、この店にやってくる。

「現在、席は５０席。これが一晩で３～５回転するわけだ」

「かなり省人化しておるからなんとか対応できておるが、ちょっと忙しすぎるの」

「あれだな、人手が欲しいよな。でも、簡単には見つからんだろ。どうにかなんない？」

「あの、私の家人が何人かいるのですが」

「家人ですか？侍女とかそういうのですか」

「はい。私の住まいには２０名ほどの侍女と１０名ほどの護衛がおります。何人かをこちらにまわすことは可能ですが」

「ああ、それは助かります。でもよろしいのですか？お家のことがおろそかになっても申し訳ないのですが」

「全然ですわ。侍女とか護衛とかと申しましても、居候みたいなものでして。私を慕って天界からついてきたのですよ。彼らにとっても喜ばしいことだと思いますわ」

　ということで何人か来てもらった。

　というか、何人じゃなかった。

「ごめんなさい。希望を募りましたら、全員来ちゃいましたの。おほほ」

　まあいいんだけど。

　それにしても、男も女も美形ばかりだな。

「こいつら、サキュバスとインキュバスとちゃうか？」

「あら、わかります？でも、ご心配は無用ですのよ。彼らのチャームスキルは封印してありますの」

「フレイヤ、サキュなんとかってどういうこと？」

　フレイヤが言うには、サキュバスは女の悪魔。インキュバスは男の悪魔。それぞれ、異性を誘惑して精気を吸い取る。果てには、非誘惑者は老人となってしまうという。

「ちょっと、待てよ。やばすぎんだろ」

「それには大変な誤解がありますわ。彼らはいわば愛の伝道者。すぐに恋愛の罠に陥ってしまいますの。残念ながら、彼らのスキルにチャームがありましたので、それが歪められて伝わっているのですわ」

「そうなの？」

「あとですね、この森のダンジョンにいる高位魔物相手ですと、彼らのチャームごときは全く通用しませんわ。むしろ、彼らが高位魔物の愛情に囚われてしまうのを恐れておりますの」

「それは確かだと思うぞ。高位魔物には生半可な精神攻撃は通用せん。まあ、様子見で使ってやってもええかもしれんのじゃ」

「私といっしょに働くことになりますから、ご安心ください」

　あと、意外な成長を見せているのが、ブラックドッグ。洗い物とかの店の裏方ができるようになってきた。

　ガルムが言うには、俺の料理には若返らせたり、能力を向上させる効能があるという。

　洗い物と言っても、魔道具で行う。自動食洗器みたいなものだ。それでも食器をセットし、洗い終わったら食器を片付ける。それを彼らがやってくれるから非常に助かる。

　あ、魔猫も成長しているはずなんだけど、流石に猫の手も借りたいって日本で言ってた通り、あんまり役に立たない。彼らには店に結界を張る、という仕事がある。だから、寝るのが仕事だとみなしている。

　◇

　さて、サキュバスたち。全然問題なく、というか、彼女たちは愛想もよく、サービス業に向いている。だから、居酒屋部門を夜に併設することにした。ガールズバーみたいなもんだな。インキュバスもいるから、ボーイズバー兼用。

　居酒屋（バー）を開店すると、あっという間にお客さんがつめかけた。

　お客さんには推しの子にお熱の人も出てきた。それも結構いる。まあ、仕方ないよね。だって、彼女・彼達は美形で愛想がよく、享楽的な性格の持ち主だ。単純に接客が楽しいんだろうね。俺だって、エミちゃんの店に足繁く通っていたし。

　これで、昼はカフェ部門、夜は焼き肉部門と居酒屋部門の二つ。カフェと居酒屋店長は女神様。焼き肉部門店長はフレイヤにやってもらう。俺は料理長兼統括マネージャーって感じだな。