第31話 最高級のほっかほか親子丼とポテトチップス

「これが親子丼か。実に美味いのじゃ!」


 最高級の鶏肉がある。

 (厳密にはコカトリスの肉)

 最高級の卵がある。

 だとすると、作らなきゃいけないのは親子丼。


 米は店にある玄米を精米して使う。

 残り少ないのが心配だ。


 若干、醤油と旨味調味料に違和感があるがプリッとした鶏肉に半熟卵がからんで違和感をものともしない旨さの親子丼だ。

 

「なあ、この世界に米ってあるのか?」


 今は店にある米を使っている。

 

「うーむ。妾たちは肉が主体での。外の世界じゃとやっぱりパンじゃの。この米というのもたべたことはあるが、もっと細長くてパサパサしておったぞ」


 ああ、長粒米は流通してるようだ。


「ふーむ、するとこの手の短粒米はこの世界では手に入らんかもしれんな」


 俺は「米しか駄目!」という人ではないが、それでも米飯は欲しい。と、なるとこの玄米を増やすしかないが……


「玄米って植えられるんだろうか?」


「やってみればいいのでは?」


 もっともだ。

 発芽玄米という商品があるぐらいだ。

 玄米でも発芽するはずだ。


 しかし、玄米は籾殻を外したお米だ。言ってみれば防御力0でいるようなもので、細菌やカビなどに対して大丈夫なんだろうか。


 まあ、俺には瓶詰めオリーブを再生した実績もあるし。



 とにかく、植えてみた。

 野菜庭園の横で。


 考えることもなかった。

 翌日には芽が出て成長し始めた。


「おお、案ずるよりなんとかだったな。しかし、これからどうするんだ?田んぼとか結構めんどくさいぞ?」


 これも問題なかった。小麦と同じで田植えとかしなくても、すくすく成長した。そして、1週間後にたわたに実が垂れたのだ。


「気分はコメ作農民のみなさん、ごめんなさいだな」


 米って、田植えだけじゃない。害虫や害鳥を追っ払ったり、雑草をこまめに処理したり大変なんだ。

 

 ま、野菜でも果物でもあっさり結実してるからな。

 今更か。


 なお、店に出す時はちゃんと精米する。そのための精米機もある。しかし、俺が食べるならいわゆる5分づき、玄米と精米の中間ぐらいの状態で糠を取り払う。


 糠は一般的にあまり美味しくない。

 俺も好きじゃない。

 それに消化に悪いしな。


 だが、その糠の部分に米の栄養が詰まってるんだ。それは小麦のフスマ(表皮)と同じだ。江戸時代に江戸患いと言われた病気は精米しか食べないことからくる栄養不足が原因だ。


 精米は銀シャリと言われるように、おいしい。

 しかし、玄米の栄養も欲しい。

 その中間をとったのが5分づきというわけだ。



 米の供給に不安がないとなれば、メニュー展開が広がる。親子丼、牛丼、照り焼きチキン丼、照り焼きステーキ丼、中華丼。


 しかし、こう考えみると海鮮が欲しい。それと、豚の供給も考えなくちゃ。


 まあ、今は手が不足しているから後日の課題だな。



 まあ、とりあえず。


「なんじゃ?この三角形の黒い食い物は」


「醤油タレの焼きおにぎりだよ。食べてみろよ」

 

「おお、確かに醤油の芳ばしい香りじゃ。それに塩味付きの米飯を固めたものか」


「その固め具合にコツがあってな」


 おにぎりはぎゅうぎゅうに固く握ると不味い。しかし、柔らかいと崩れてしまう。握り具合が難しい。携帯する場合は固く握るしか無いが、こうやって店で出す分には柔らかく握る。


「うむ。中はふわっとした美味しさがあるの」


「中にいろいろ具を入れてもいいんだ。携帯に便利だからな。ダンジョンを彷徨ったりするときにはいいお供になるぞ」


「ほう。じゃあ、いくつか頼んだぞ。ちょっとうろついてくるわ」


「ああ、私も。配下のものに褒美として取らせますわ」


 ◇


「うーん、つまみが足りんなー」


 俺はりんご酒を飲みながらつぶやく。


「つまみって、焼き肉とかではいかんのか」


「いや、なんていうかもっと気軽なものが欲しいんだよ。本当につまめるものって感じの」


 俺はジャガイモを使ってポテトフライを作ってみた。


「ジャガイモを油であげただけ?それでこれだけ美味しくなるのかの?」


「軽い塩味なのもきいていますわ」


「ハフハフだど」


「ふにゃ。バフ」



 俺は更に考えた。ポテトフライもいいんだが、俺は成型ポテトチップスが大好きなんだ。ほら、円筒の容器に入っている、ブリ◯グスとかチッ◯スターとか。


「成型ポテトチップスじゃと?」


「うん、サクサクパリッとしていて長期保存も可能なんだよ」


「妾たちはマジックバッグがあるから関係ないが」


「まあ、そうなんだけどね。ただ、俺はあの食感が好きなんだ」


 で、作ってみた。まず、ジャガイモをフレーク状にする。薄い小片状にするのだ。若干の味付けを施し、あの成型ポテトチップスの形にする。


 すべて風魔法で対応した。乾燥させて、粉砕して、味付けして、圧縮する。圧縮の型取りに若干の技術が必要だったが。


「食べてみろよ」


「パリッ。ほう、確かに食感がいいのじゃ」


「それに軽くて美味ですわ」


「油を使わんからな。フライドポテトに比べるとカロリーが半分くらいだったかな?」


「太りにくいということか?」


「まあ、そうだな」


「妾は関係ないが。太った記憶がない」


「あー、わたくしはちょっとうれしいかも。酒太りとかしてましたし」


 いや、女神様。

 どんだけ酒飲んでたんだよ。


 好評だったフライドポテトに成型ポテトチップス。俺は両方とも魔道具を作って対応する。特に成型ポテトチップスは魔道具を使わないと、サイズを揃えるのが面倒くさいのだ。


 ◇


 他にも酒のつまみを作ってみた。ビーフジャーキー。あれは燻製製品だ。塩やハーブを混ぜた溶液に肉を漬け込み、いい香りのチップでくすぶる。


「ふむ。外の世界の干し肉とは随分質や味がちがうの」


「ですわね。普通、干し肉って半分腐っていますもの。私は敬遠しておりますの。でも、これはいい風味がついて味わい深いですわ」 


「門番のついでに食べれるど」


「ふにゃ。バフ」


「それにしても、酒がすすみそうな食べ物じゃの」


「酒のあてにするためだからな」


「ああ……いけませんわ。そんなことおっしゃられたら。手がお酒に伸びてしまうではありませんか」


 この女神様、酒を飲むと無自覚に魅了スキルを周囲にばらまくらしい。それで主神様が怒って天界を追い出されたのだ。


「んじゃ、女神様だけビーフジャーキーとかなし」


「ああ、それはもっといけませんわ」


「どっちなんだよ」


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