5 メニューの追加と常連
第28話 コカトリス焼き鳥メニュー
「鶏といえば、やっぱ焼き鳥だよな」
「焼き鳥はすでにメニューにあるじゃろ」
「だべ」
「ちょっと違うんだよ。あっちは鶏肉をまるっと使ったろ?こっちは、鶏肉を細切れにして串に刺して焼くんだな。焼き方もコツがいるぞ。やっぱりジューシーさを失わないように火加減が難しいんだ」
「ほお。ちょっとやってみよなのじゃ」
俺は胸肉を細切れにして串にさせて焼いてみた。
「肉のカットの仕方だが、これにも注意が必要だな。胸肉だと繊維を断ち切るようにカットするわけだ。勿論、厚さ・幅・形・大きさは揃えなくちゃいけない。火の通りが違うからな」
「火加減の問題じゃの」
「その通り。串打ちもバランスよく、肉の繊維に対し垂直に刺す。最後に、上から押さえて肉の厚みを均等にして」
「こだわりがあるんじゃの」
「火加減は中火か中火よりの弱火。火元に近づけすぎないように、両面を3~4分ずつ様子を見ながら焼く。火を通しつつ、ジューシーさを失わない。これは魔牛と同じだ。俺には火加減スキルがあるから簡単にコツを掴めるが、焼き一つとっても熟練の技が必要なんだよ」
「ほお」
「甘辛醤油タレは焼き上がり直前に味付け。砂糖が入っていて焦げやすいから注意な」
「おお、照り焼きの芳ばしい香りが漂ってくるの」
「うむ。店先で焼けば人を惹きつける香りだな」
「お腹に響くのじゃ」
「我慢できんだべ」
「ブニャ!ワウ!」
「おお、みんな集まってきたか。ふふ、さあ出来上がり」
「待ってたぞ!」
「早くお皿に!」
「ブニャ!ワウ!」
「おお、これは美味いのじゃ。普通の鶏肉ステーキとはひと味違うの」
「だべ!」「ウニャ!ワフ!」
「なんでだろうな。遠赤外線効果かな。カットされた形がほぼ統一されてるから、火加減を繊細にコントロールできるってのはあるよな」
「それにしても、カット一つとってもコツがあるんじゃの」
「ああ。今回は胸肉だが、もも、ささみ、手羽、レバー・ハツ、皮などパーツによってもコツがある。さっそく、俺には解体スキルが生じたから、包丁一本でズバッとカットできるが、将来的には魔道具でカットできるようにしたいな」
「うむ。従業員育成のためにもな。おい、黒犬たち。よく見ておくのじゃ」
「ワフ!」
フレイヤが言うには、黒犬は俺の料理のおかげで少しずつ賢くなっている。俺の言葉をかなりの程度理解できるようになってきた。前脚は器用になってきてお箸を使い始めているし、下手するとずっと二本脚で立ってる。
ああ、魔猫は相変わらずだ。寝てるか遊んでるか、食べてるかのいずれかだ。賢くはなっているみたいだが。
「黒犬たち。カットはともかく、串刺しを練習してみるか?上手くいったら、鶏肉食べ放題だぞ」
「ワフ!」
「おお、やる気まんまんだな。じゃあ、胸肉からいくか」
まずは、手洗いからだ。ダンジョンではそこら中にはえている石鹸の実でゴシゴシ両手というか両前足を洗う。
そして、黒犬たちは不器用ながらもカットされた胸肉を串刺しし始めた。コツは割合早めに習得し、やがて満足のいける成果を出し始めた。
「こりゃ、魔道具を早目に作成するか」
この串刺し、単純作業に見えて意外と魔道具と相性が悪い。前後のカットと焼きの魔道具化はすぐだったんだが。だから、長い間、黒犬の手作業に頼ることになった。
◇
「新メニューの串刺し焼き鳥、イケてるね」
「ああ、酒が進むな」
「ダンジが言ってたが、エールとよく合うそうだぞ」
「エール?あの安酒と?」
「ダンジが言うには、磨き上げられたエールはほろ苦くて素晴らしい味わいらしいぞ」
「ほお。俺達の知っているエールとはものが違うっていうのか。まあ、大調理人様だからな。しかし、そんなこと言われたらエールが飲みたくなるな」
「ホップとかいうハーブを探しているらしい」
「ホップ?エールにはいろいろなハーブが入っているが」
「ああ。あれはグルートと呼ばれていて、製法は領主とか貴族が独占していたりするよな。あれじゃなくて、もっといいハーブがあるらしい」
「なるほど。貴族独占のハーブ特許をかいくぐれてしかも味もいいと」
「そゆこと。ただ、なかなか見つからないってさ」
俺はいろいろアンテナを飛ばしてホップを探させている。現状では王国にはホップはないか、見つかっていない。
「それにしても、魔牛メニューもおいしいが、鶏肉もたまらんな」
「ああ、普通の鶏肉ステーキ、鶏の唐揚げ、あと野菜のごった煮(筑前煮)、ガラスープによるヌードル(チキンラーメン)、そして焼き鳥」
「いずれも食べるのが迷ってしまうよな」
「あれも食べたい、これも食べたいになるからね」
「これに魔牛メニューが加わるからな」
「ダンジは豚系と魚系のメニューも増やしたいらしいぞ」
「ほお。ますます、たまらんようになるな」
「まったく。楽しみでしょうがないね」
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