第27話 堕ちた女神様2
「働く前にですね、格好とかいいのでしょうか」
「ああ、お好きな格好で結構ですが、なんなら制服とか作りましょうか。一応、制服らしきものはあるのですが」
「拝見したいのですわ」
うちの制服は、いわゆるワイシャツに黒のベストとパンツの組み合わせだ。男女兼用である。襟元のワンポイントチョウタイや、ゴールドの飾りボタンが印象的。
「まあ。おしゃれな服ですのね」
「一応、高級感と実用性を兼ねて選んでます」
「ふーむ。見栄えはいいのじゃが、何か飾りが足りんのじゃ」
「いや、店員さんなんだから、飾りとか邪魔でしょ?」
「妾たちを見くびるでない。もっと華やかな服がほしいのじゃ。ちょっとダンジ。前のエミちゃんよりも綺羅びやかなのがいいのじゃ」
うーむ。派手なのは動きにくいだろとは思いつつ、綺羅びやかねえ。俺は一瞬黒のゴスロリを脳内に思い描く。
「おお、ダンジ、ええではないか。ごすろりというのか?ちょっと変身するぞ」『ボワン』
「まあ!まあ!なんて素敵な衣装なんでしょ!じゃあ、私はちょっと色を工夫して」『ボワン』
女神様も自由に身にまとった服を変えられる。
「なるほどのう。黒一色にブルーを加えたのも高級感が出るの。では妾はエンジ色を加えるのじゃ」
いや、もうそれコスプレとしか見えないんだけど。でも、二人共超絶美形だから、服に負けてない。というか、物凄く似合ってる。
「まあ、お好きにどうぞ」
ということで、服に関しては二人にまかすことにした。
◇
こうして、店が慌ただしく回り始めた。
ただ、俺も少し疑問がないことはない。生きていくだけ、ということであれば、俺は何も食堂を開く理由はない。
衣食住のうち、食と住に問題がないからだ。大きな魔石は有り難いが、使い道があんまりない。人間の街へ行けば換金可能であろうが、人間の街で散財するような買い物が必要か?金を使いたくなることがどれだけあるのか?
だが、ちょっと心境の変化が起きている。日本で俺がレストランを開店しようとしたのは、勿論、生活のためが大きいのだが、料理を作るのが好きということが一番。2番めがそれを食べてもらって美味しいといってもらうのが本当に嬉しい。
そして、この世界に転移してきた。この摩訶不思議な世界で魔物相手とはいえ、俺の料理を美味しいと言ってくれる客、そして、仲間が集まり始めた。
ちょっといい感じじゃないか?
しかもだ。俺の作る料理。自分でいうのも何だが、転移前よりも美味い。
何よりも食材が抜群なんだ。その食材は魔法の力で最高の形で準備できる。
転移した直後は混乱したし、落ち込みもした。店を開く意味があるのか?と考えもした。でも、今は気分が随分と前向きになってきたぞ。
◇
「このダンジョンってな、吸収されるのは魔物の死体だけじゃないな。ゴミなんかも翌日にはなくなってるぞ」
「ゴミだけじゃないのじゃ。体の汚れとか油汚れとかも翌日にはキレイになるのじゃ」
「ふうむ、風呂は毎日入るから気が付かなかったが、そうなのか」
「汚れは1日たたないとキレイにならないから、気にするものはいるかもしれんのじゃ」
「確かに。ダンジョンでは絶えず1日分は汚れたまま、ということだもんな」
「気になるなら石鹸があるぞ」
「石鹸?」
「ダンジョンにはの、石鹸の木が生えておる。果実がそのまま石鹸になるというスグレモノじゃ。妾も携帯しておるぞ。それ」
「へえ。外見は青りんごみたいな感じだな……ほお。ちゃんと手がキレイになる」
「香りもいいじゃろ」
「うん、爽やかなレモン系の香りだな」
「生ゴミとかトイレ用には間に合わんから、魔道具を作ったらどうかの?」
「バイオ魔法発現してるし、作ってみるか」
店舗清掃用の魔道具を作ってみた。油汚れ、生ゴミ、排泄物を瞬時に分解する魔道具だ。消臭も可能だ。
「妾は毛づくろいのための魔法ももっておる。どうじゃ、魔道具に組み込んでみるか?」
「そういや、フレイヤはいつも毛がツヤツヤしっとりしてるな。トリートメントしてるみたいだ。ぜひ、魔道具に組み込みたい」
「では、体の洗浄魔法と髪の毛ケア魔法を組み込むのじゃ」
◇
「お主の料理はいろいろ整える効果があるじゃろ?」
「そうみたいだな。調理人効果か?」
「妾たちの体調もよくなったのじゃが、魔猫や黒犬にも変化が出てきておるのじゃ」
「へえ」
「まず、両方とも人の言葉をかなり理解するようになってきたのじゃ」
「ふむ。前はご飯関係に集中してたけどな」
「それから、魔猫は結界スキルが強化されたの。5割増しにはなってるようじゃ」
「へえ、大したもんじゃないか」
「黒犬はの、影スキルが発現しておる」
「影スキル?」
「黒犬は進化すると犬神になるのじゃが、その代表的なスキルが影スキルで、影に潜むことができる能力じゃ」
「もっと凄い話しだな。じゃあ、犬神になったのか?」
「まだ黒犬のままなのじゃが、影スキルは使いこなせるようになっておるのじゃ」
「影に潜むだけなのか?」
「影移動もできるのじゃ」
「隠密活動にはもってこいじゃないか」
「うむ。あとの、食堂のボーイとかもまかせられるの」
「影に潜んでサーブするのか。なんだか、スキルの無駄使いに聞こえるが」
「いやいや、混雑しておるフロアを移動するにはなかなか優れスキルじゃろ」
「いきなり地面から黒犬が現れて、お会計、とかやるわけか」
「そうじゃの」
「ちょっと違和感が」
「影スキルなどというスキルは珍しいからの。ダンジョンの上位魔物ならば喜んでくれるのじゃ」
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