4 客が来た

第23話 匂いにつられて焼肉屋強制開店に1

 俺と店がこの世界に転移して2ヶ月以上がたった。正直いって、ムリに開店しなくてもいいか、と思い始めている。


 だって、自分の料理が楽しすぎるから。最高の素材があって、自分のスキルはチートになっている。俺の料理は自分の最高値を更新し続けている。


 このまま、自分の思うがままに料理して泰然と暮らしていってもいいか。そういう気持ちもある。現状では収入が必要とは思えないしね。支出がゼロに近いんだ。料理の素材も魔石もダンジョンで低位魔物を狩っていればどんどんと増えていく。税金も電気代とかもかからない。


 でも、この料理をみんなに食べてもらいたい、という気持ちも芽生え始めている。自分で言うのもなんだが、料理が美味しすぎるんだ。多くの人に楽しんでもらいたい。


 そんな相反する気持ちを持ち始めたある日。


 

「えらくいい匂いがするんで、ちょっと寄らせてもらったよ」


 俺が昼飯のために内蔵肉を焼いているときだった。

 筋骨隆々の大男が店に入ってきた。


「あれ?結界が張ってあったんだが」


「ああ、すまんな。そんなに大した結界じゃなかったから、素通りさせてもらった」


 店に張ってある猫結界。そんなに簡単に素通りできるような代物じゃない。この人、何者?


「おお、ハイ・オーガの【リュージュ】か。お主の波動はキャッチしておったのじゃ」


「おや、魔猫の【フレイヤ】様。相変わらず、気配を消すのが上手でございますね。お久しぶりでございます」


「こちらこそなのじゃ」



「それにしても、この建物といい、いい匂いといい、何をされているんですか」


「いやの、この者が森に異世界から転移してきての。で、ここで食堂の開店準備をしておったのじゃ」


「ほお、異世界人が食堂を。異世界人も珍しいですが、100年ぶりですかな、このダンジョンに食堂ができるのは」


「そうじゃの。あの男の料理も美味かったが、このものは職業が大調理人でスキルが究極調理というものなのじゃ」


「なんと!伝説的な職業とスキルではないですか。そりゃ楽しみなものが我らの仲間に加わったというわけですか」


「うむ。とりあえずは、焼き肉から入ろうか、と魔牛を準備しとるのじゃ」


「すると、その焼き肉は魔牛ですか。やけにいい匂いが漂っていますが」


「これは肉を焼く匂いと、調味料の焼き肉のタレというものの匂いじゃ。醤油と砂糖とかを混ぜたものじゃの」


「醤油は初めて聞く名前ですが、実に香ばしい匂いですな」


「うむ。タレを肉につけこんで焼いとるからの。お前も食べてみるか?」


「ああ、その言葉を待っておりました」


「ハハハ、相変わらず遠慮がないの」


「【フレイヤ】様には負けますが(笑)」


「言うではないか。おい、ダンジ。紹介してやろう。ハイ・オーガの【リュージュ】。分かるとは思うが、高位魔物じゃ。かなりの実力者なのじゃ。【リュージュ】、こちらは店主のダンジじゃ」


「「よろしく」」


 大男は手を差し出してきたので、握手を交わした。

 どうやら、握手がこちらの挨拶のようだ。


 リュージュはハイ・オーガということだが、オーガということは鬼ということなのか?ハイがつくからオーガの上位種か。


 頭の上に2本の角が伸びている以外は、屈強な人間という感じだ。上腕なんか俺の太ももより太いぞ。身長は2mを軽く越えているだろう。体重も100kgどころではない。顔も精悍な美丈夫だ。


「異世界から転移したばかりでちょっとまごついているので、よろしくお願いします」


「ああ、こちらこそ。わからんことはどうぞ遠慮なく」


「ありがとうございます。ああ、どうぞ椅子にお座りください」


「そうか、じゃあこちらに」



「ところで、フレイヤ。【フレイヤ】とか【リュージュ】とか不思議な言葉を発していたが、どういう意味なんだ?」


「ダンジ、それが以前少し話した存在で呼び合う、ということじゃ」


「ああ、なるほど。少し理解したぞ。【フレイヤ】これでいいのか?」


「そうじゃ、流石に覚えが早いの。慣れるとすぐに相手の呼称がわかるから便利じゃぞ」


「じゃあ、これからは存在で呼ぶようにするわ」


「うむ。お主は【ダンジ】じゃの」


「おお、ちょっと変な感じだ。俺の心の奥深くに呼びかけられているようだ」



「【ダンジ】、それはともかく飲み物を案内するのじゃ」


「ああ、それは申し訳ない。【リュージュ】さん、ドリンクは今のところ、これだけあるんだけど」


 俺はメニューを見せた。


「このうち、今出せるのは内臓とドリンクですね」


【焼き肉】 ※牛の部位画像付き。

 1人前は1KG。

 MSは魔石の重さ。


 4000MS

 ■ヒレ【シャトーブリアン】


 3000MS

 ■ヒ  レ

 ■サーロイン

 ■肩ロース【ざぶとん】


 2000MS

 ■肩ロース

 ■肩  肉【ミスジ】

      【ウワミスジ】

 ■肩バラ 【三角バラ】

 ■リブロース

 ■バ  ラ【カイノミ】

      【ササバラ】

 ■ランプ 【ランプ】

      【イチボ】

 ■マ  ル【ヒウチ】

      【まるしん】


 2000MS(内蔵)

 ■タン

 ■ツラミ(頬肉)

 ■ミノ(第1胃袋)

 ■レバー(肝臓)

 ■ハツ(心臓)

 ■ハラミ(横隔膜)

 ■サガリ(横隔膜)

 ■センマイ(第3胃袋)

 ■小腸

 ■大腸


【バゲット】500MS

【ドリンク】500MS 200ml

 リンゴ、白ぶどう、チェリー

【醸造酒】1000MS 200ml

 リンゴ、白ぶどう、チェリー

【蒸留酒】1000MS シングル30ml

 リンゴ、白ぶどう、チェリー、ラム


 なお、日本から持ってきた飲料は店に出していない。量が少ないのと、個人的に楽しむためだ。


 鶏肉と卵については商品開発中。


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