第24話 匂いにつられて焼肉屋強制開店に2

「へえ、魔牛肉といっても、いろいろな部位があるんだね」


「ええ。部位の場所は画像でチェックしてみてください。それぞれ味わいがあるんですが、最終的にはご自分の舌でお好きなのを選んでください」


「MSって?」


「魔石の重さですね。ちなみにゴブリン魔石は1個500MSです」


「飲み物は聞き慣れないものがあるんだけど」


「チェリーは砂糖の実のことじゃ。ラム酒は砂糖の実から作った蒸留酒」


「蒸留酒とは?」


「まず、醸造酒は普段飲んでいる酒じゃ。その醸造酒を濃縮したのが蒸留酒。酒精が非常にキツイのじゃ」


「へえ、ドワーフあたりが喜びそうだね。僕はりんご酒の醸造酒を頼むよ。あと、内臓はおすすめを」


「畏まりました。じゃあ、タンとハラミあたりですかね」


 …………


「内臓が焼き上がりましたので、お召し上がりください」


「おお、ありがとう……うわっ、これ魔牛の内臓だよね?臭みが全然ないんだけど。あと魔素も全くないね」


「そこがこの料理人のスキルの一つなのじゃ。臭みや魔素、血を一瞬にして抜いてしまう」


「ああ、そういえば血もないのか。タンとハラミか。新鮮でとっても美味しいね。この甘辛いタレも最高だね。それに、このりんご酒。実に爽やかな酸味を感じさせる香りとまろやかな味わいで質が高く感じるよ」



「ウニャウニャミーミーバウバウ!」

 

「ああ、猫たちが……ちょっとすみませんね、うちの『従業員たち』にもまかないを出しますので」


「『賄い』か。仕事、何しているの?」


「魔猫は結界。黒犬は周辺警備。そして、【ガルム】が門番」


「ああ。【ガルム】さんも久しぶり。実は彼の波動を感じてこの店に近づいたんだよ」


「ああ、【ガルム】は波動を撒き散らすからの」


 ガルムの仕事はずっと門番。波動を積極的に見せてきたので、隠す、という選択肢が彼にはない。



「どうも、ごちそうさま。大変美味しかったよ。おいくら?」


「いや、まだ開店してませんから」


「それはいけないよ。支払いはメニュー通り、魔石でいいかな?」


「じゃあ、◯MSです」


「そうですか?じゃあ、これで」


 大きな魔石をマジックバッグから出して、ゴロンと机の上に置く。


「夜になったら内蔵じゃない肉のほうを出すからの。これはちょっと驚く味じゃぞ」


「そうなの?そりゃぜひ味わいたいですね」


「うむ。友人つれてくるといいのじゃ」


「うーむ、まだ開店準備が……」


「ええではないか。とりあえず、肉はある。ドリンクもある。店名は?」


「店名か?ダンジョンに一つしかない食堂なんだから、『ザ・食堂』って感じなんだが。ちょっと急に言われても困るなあ」


「迷うようなら、通称ダンジョン食堂でええじゃろ。名前が決まったのなら、正式に名乗ればいいのじゃ」


 ということで、なし崩し的に店がオープンした。


 ◇


「100年ぶりにダンジョンに食堂ができたって?」


「うん。偶然見つけたんだけど、ちょっと驚くような魔牛の内蔵を出してきたんだ。全然臭くなくて、僕は初めて内臓の味を知ったよ」


「臭くないのか?」


「血抜き、魔素抜き、内容物抜き、消臭をしているらしい」


「ほう。魔素を抜くってのは案外難しいんだが」


「職業大調理人で、スキルが究極調理なんだと」


「おお、すごそうだな。伝説級じゃないか」


「内蔵だけじゃなくてね、タレとか飲み物とかも美味しくてね。夢中で食べたよ」


「おお。俺も味わいたいな」


「店の話によると、魔牛肉自体もあって、それはもっと期待できるらしい。夜なら食べさせてもらえるらしいよ」


「よし、いくべ」


 ◇


「また寄らせてもらいましたよ」


「おお、【リュージュ】か。それと?」


「ハイオークの【ミールス】です。【フレイヤ】様」


「おお、そうじゃった。すまんの。久しぶりじゃの」


「ええ、30年ぶりぐらいですか。僕、研究室にこもることが多くて、あまり外出しないんですよ」


「確か、薬師じゃったかの?」


「ええ。販売じゃなくて、研究してるだけなんですけどね」


「うむ。二人共、好きなところに座るのじゃ」


「はい、こちらがメニューです」


「うお、こんなに細かく部位が分かれてるんだ」


「それぞれの部位で味が違うからの」


「タンとハラミもおいしかったんだけど、今晩は肉だよね。どうしようか」


「肉は迷ったらバラあたりがおすすめですかね」


「じゃあ、それで。飲み物はりんご酒」


「じゃあ、僕も」


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