第22話 コカトリスは最高級地鶏を越えた味

「では、焼鳥の前に各種ドレッシング・ソース作りだな」


「どんなのを作るのじゃ?」


「まずは、マヨネーズだ。これは美味いぞ。美味すぎてペロペロが止まらんぞ」


「ペロペロじゃと?なめるということか?妾はそんな品のないことはせんぞ」


「ふふ、まあ見てなって」


 マヨネーズは、主要素材は卵、酢、油の3つ。


 まず、卵は鶏卵がある。これは日本でも最高級レベルだ。濃厚なコクがあって嫌な匂いがない。全卵でもいいが、卵黄のみを使う。


 酢はリンゴ酢。俺の好みとしては酸っぱい米酢が好きだが、ここにはない。玄米があれば糠から油がとれるのだが。


 ただ、リンゴ酢でも合格だ。マヨネーズに使う油は風味の強いのは不合格。一度オリーブオイルで作ったことがあるが、不味くて捨ててしまったことがある。


 作り方はさほど難しくない。卵黄と酢を混ぜたものに少量ずつ油をたらし、よく混ぜていく。白っぽくクリーム状になったらでき上がり。


 後は塩で味付けをするとスタンダードなマヨネーズになる。でも、これだけでは日本人なら納得しないと思う。さっぱりしすぎているからだ。


「ふうむ。まあまあじゃの」


「へへへ、こっからなんだよ。この先の素材でびっくりするぐらい変わるから」


 日本人はQ◯マヨネーズに慣れている。あれはスタンダードなマヨネーズとはかなり味が違う。もちろん、俺もあの味に寄せていく。加える材料は砂糖、辛子、レモン汁。これでかなりそれっぽい味になる。


 さらに、俺は自作調味料を加える。旨味調味料の代替品となるものだ。それは


 魚の煮干し

 乾燥白エビ

 乾燥キノコ

 乾燥昆布

 鰹節


 以上の粉末を粉砕して混ぜ合わせるのだ。鰹節と昆布はこの世界では見つかっていない。いずれこの2つは見つける或いは自作するとして、

 魚の煮干し 川魚の素焼きで代用

 乾燥キノコ しいたけに似たものを使用

 乾燥白エビ 市場でおやつとして売られていた

この3つを使う。


 要するに旨味成分であるイノシン酸、グルタミン酸、グアニル酸を強化するわけだ。使用する量は僅かなものである。しかし、この僅かな旨味調味料のお陰で味にキレが出る。



「なめてみろよ」


「おお、なんじゃこりゃ!」


「うまいど!」


「フニャ!バウバウ!」


「いかん、ペロペロが止まらんのじゃ、助けてほしいのじゃ」


「だから言ったろ。さらにだ。もっとペロペロが止まらんものを作る」


 それはタルタルソースだ。マヨネーズにゆで卵と玉ねぎのみじん切りで味を強化したものだ。


「おおおお、もっとペロペロが止まらんのじゃ!」


「止まらんど!」


「フニャ!バウバウ!」


 いかん。こいつらに付き合っていたらせっかく作ったものがすぐになくなってしまう。


「えー、もうおしまいなのか?もう少しほしいのじゃ」


「マヨネーズとかはな、依存症に近いものがあってな、マヨラーって呼んでるんだが、何にでもマヨネーズをかけて食べたがるようになっちまうんだ」


 マヨラーも重症になるとご飯やソーメン、ラーメンにマヨネーズをかけたりする。コーラにマヨネーズという人もいるらしく、マヨネーズ炭酸飲料が発売されたことがある。


「うむ。マヨラーなるもの、気持ちはすごくわかるのじゃ」


「わがるど」


「フニャ。バウバウ」


 マヨネーズを使った調味料としては、ごまドレッシングも作った。これも定番だ。野菜・肉なんにでも合う。



「次のソースは照り焼きソースだ」


「またもや、悪魔のような旨さではないじゃろな?」


「今度のやつはペロペロするようなタイプじゃない。しかし、加熱したときの匂いは凶悪だぞ」


 材料は、醤油、砂糖、白ワイン。


「どうだ。ちょっと加熱してみたが」


「本当じゃ。醤油だけでも加熱するといい匂いがするのじゃが、これに砂糖が加わるとたまらんの」


「肉を照り焼きソースに漬け込んで焼く。出来上がりにマヨネーズをかけて食べる。美味いぞ」


「早く焼くのじゃ!」


「焼いて欲しいど!」


「ニャー!バウ!」


「コカトリスが熟成するのは最低でも明日だ。しばし待て」


「殺生なのじゃ」


「待てんど」


「フニャー。ワフ……」


 ◇ 


 さて、次の日。


「まだ十分熟成していないが……諸君はそう言うと怒るよな?」


 俺には熟成監視スキルがある。


「当たり前じゃ。妾のお腹は鶏肉になっておるのじゃ」


「だど」


「にゃ。バウ」


「俺の熟成スキルではおそらくあと数日は熟成にかけたほうがいいとあるが、ま、仕方ない。1羽を潰すぞ」


 俺はコカトリスを熟成室から出して解体作業に入る。身体構成はほぼ鶏と同じだ。手羽先、手羽元、胸肉、ささみ肉、もも肉、皮、砂肝、骨などに分けていく。もちろん、俺の包丁スキルで一瞬だ。


「じゃあな、一気に焼いていく。どの肉を選ぶかはくじ引きな。猫や犬も平等に扱うぞ」


「なんでじゃ。妾が一番じゃろ」


「おでが一番だど」


「ふにゃ、ばうばう!」


 こいつらはだんだんわがままになってきやがった。

 とにかく、くじを引かせる。


「バウ!」


 黒犬の一匹が一番だった。

 

「ニャー!」


 2番は魔猫。


「なんでじゃー!」


 ドベはフライヤだった。


 あたりには照り焼きソースの芳ばしい香りが漂いまくっている。


「じゃあ、まずは照り焼きチキン。マヨネーズ付。好きな部位を取っていきな」


「ウオオン!」「フニャ!」「やっと食べれるど」


「どう?」


「匂いも香ばしいのじゃが、この甘辛いタレは病みつきになるの」


「マヨネーズも味が濃くなってええど」


「それにしても、肉自体がいいの。コリッとしていてジューシーで濃厚な味じゃ」


「ニャルルル!バウ!」


「魔牛も美味かったのじゃが、妾はコカトリスのほうが口に合うの」


「絶品だど」


「ニャ!バウ!」


 牛より鶏がいいってか。

 実は俺もそう思う。

 いや、牛も超特級レベルで美味いんだが。


 これはタレの威力だな。照り焼きのタレを使って魔牛を焼いたらまた評価が変わりそうだ。


 いや、特級肉なんだから、塩だけで十分。そういう声もあるだろうが、この照り焼きタレはそういう通の声を封殺する。



「じゃあ、続いて鶏の唐揚げ。これにはタルタルソースとレモンをつけて」


 ああ、反応はわかりきってるから、省略。


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