第21話 コカトリスの狩猟に四苦八苦

「お主、コカトリスの肉を食べたことはなかろう」


「見たこともないわ」


「コカトリスは5~8階層に巣食う鳥での。鶏を大きくしたような鳥じゃ。での、肉がこれまた美味なのじゃ」


「ほお。じゃあ、すぐに捕りにいこうぜ」


「まあ、待て。コカトリスはかなりすばしっこくて凶暴じゃ。さらに短時間じゃが空を飛ぶ」


「短時間か。どのくらい?」


「10秒から20秒ぐらいじゃの」


「その程度なら問題ないだろ?」


「コカトリスはの、弾丸のようにすっ飛んでいくのじゃ。10秒あれば遥かかなたじゃ」


「そうなると、魔牛みたいにこ~そりやるってことか」


「基本はそうじゃが、魔牛よりも敏感じゃ。並のステルスでは気づかれる」


「どうすんだよ」


「ステルス+遠距離射撃じゃの」


「そんなに敏感なのか」


「遠距離じゃろうと、狙った瞬間に奴らに気づかれる」


「ほう」


「じゃから、意識を極力隠すか、もしくは攻撃する意思を起こさない」


「達人みたいだな」


「並大抵の達人ではないのじゃ。訓練あるのみじゃ」


「訓練かー」



「おーい、ガルム。ちょっと手伝ってやるのじゃ」


「なんだべ?」


「ダンジが気配を消す訓練をしたいっていうのじゃ」


「わかったべ。気配がしたら吠えればいいべか?」


「それでいいのじゃ。ダンジ、ちょっと離れてガルムに攻撃してみろなのじゃ」


「え、大丈夫なのか?」


「おまえごこときの攻撃ではガルムはビクともせんのじゃ」


「どのくらい離れればいい?」


「そうじゃの。1kmといいたいところじゃが、100mかの」


「100mって、届くわけねーだろ」


「包丁でも魔法でもやってみるのじゃ」 


 包丁技では射程距離を伸ばせない。

 せいぜい10mぐらいだ。


 で、魔法で検討してみた。結局、射程距離の長いのは風魔法の風刃だった。風を刃のように高圧縮して対象を切り裂く。その風刃を風に乗せるようにして遠くに届かせる。



「やればできるではないか。では次はターゲッティングじゃの。じゃが、ターゲッティングしてはいかん。気づかれてしまう」


「ターゲッティングせずに照準を合わせろってか」


「そうじゃ。ガルム相手にターゲッティングせずに魔法を発動できるよう訓練するのじゃ」


 物凄く無理ゲーだ。

 なにせ、ガルムを見つめただけで


「ワフッ!」


 と反応が返ってくる。ガルムの感度もすさまじいんだが。だって、100m離れている。その距離で俺の照準する意思を捉えるわけだ。


「ダンジ、みちゃいかんど。目に入る感じで照準を合わせるだ」


 なるほど。自然さを心がけるわけか。いわゆる自動詞ってやつだな。見るんじゃない。向こうからこちらの視界に入ってくる感じ。


「(おお、ガルムが視界に入った。よし、魔法を発動するぞ)」


「ワフッ!ダンジ、意識が強すぎんど。敵を攻撃するぞって考えちゃ駄目だど。魔法の発動だけに意識を注ぐといいかもしれね」


 ガルムに言われた通りにやってみた。

 できない。


「疲れてんか?もっと力をぬいて。脱力して意識を大気に混ぜ込ませるように」


 うーむ。なんだか、仙人のようだ。俺はふにゃふにゃの体にして心もリラックスさせて


「合格だど!今のは攻撃するって感じがなかったど」


 ふう。

 

「あとは、殺傷能力を高めることだど」



 風刃はガルムに届いた。でも、そよ風だった。何しろ、対象を攻撃しようという意思がない。風刃の威力も高まらない。


 ただ、無意識攻撃のコツを掴んだことでその後の修練ははかどり、やがて威力のある攻撃がガルムに届くようになった。


「コカトリス程度なら、これで行けると思うど。あの鳥は防御力、紙だで」


 ようやく、ガルムから合格判定が出た。


 ◇


 では、喜び勇んで8階層へ。8階層は魔水牛のいる層だ。一旦訪れたことのある層は転移魔法で入口までなら行くことができる。


「ダンジ、索敵は妾がやる。妾のあとをついて参れ」


 フレイヤは猫の姿に戻り、ゆっくり歩き始めた。

 フレイヤの索敵距離は数百メートルはあるらしい。


「よし、妾の10時方向。距離は300mといったところかの。風向きはこっちが風下じゃ。行くぞ!顔をあげるなよ」


 俺は言われた通り屈んで進んでいく。


「ここで距離100mあたりじゃ。これ以上だと、奴の警戒範囲に入る」


 俺は進行方向前方を見てみた。ここまでくると、俺にも対象が見える。俺の身体能力が非常に上がっていると感じる。


 あ、奴はこちらを見た。なるほど、すごい感度の持ち主だ。俺は意識を空中に潜り込ませた。



「行けるか?」


「うし!」


 俺は気持ちをリラックスさせてガルムとの訓練を思い出した。自然体で対象が視界に飛び込んでくるのを待つ。そして、意識を飛ばしたまま、風刃を発動させた。


「やったか?」


「うーむ、残念じゃの。多分、右横にはずれていったのじゃ」


 風刃は風だから、目には見えない。

 フレイヤは魔力感知だけで風刃を追ったのだ。


「じゃが、奴は攻撃に気づいておらなんだの。後は精度だけじゃ」


 俺は何度かトライする。

 攻撃ははずれるが、対象は気づかない。



「よし!ヒットしたぞ!」


 ようやく、俺の攻撃はコカトリスに当たった。

 首を切断したのだ。


 俺達はダッシュで接近し、獲物を収納した。


 コツを掴んだ俺は、その後は割合楽だった。

 その日のうちに俺は5羽を獲得したのだ。


 ◇


「疲れたろ。今日はこのぐらいにしとくかの」


 確かに、疲れた。何も力を使っていないはずなのに、ゴリゴリ精神を削られている。


 店に戻った俺はさっそく解体だ。

 身体構造は鶏と変わるところはない。

 

「『解体!』」


 俺は包丁の解体スキルで獲物の羽と内臓、頭、血、魔素を取り除いた。そして、熟成室に放り込む。鶏程度であると、2日もあれば熟成する。コカトリスは鶏よりも大きく、剛健な筋肉を持つ。したがって、熟成期間はもう少し長くなるだろう。

 

 8階層には鳥塚を作って供養することにした。リポップする魔物とはいえ、生き物に対する敬意は欠いちゃいかんと思うのだ。


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