第19話 卵と小麦2
「ただ、卵を生む間隔はどうなんだ?」
「1か月に1個ぐらいではないか?よくは知らぬが」
「うーむ、俺の前の世界では毎日のように卵を生んでいたんだが」
「毎日?それは凄いの。あのな、お主には品種改良スキルがあるはずじゃ」
「そんな便利なものが?……おお、ホントだ。眼の前に品種改良スキルのメニューが浮かび上がってきたぞ」
「それで上手くやれんか?」
俺の品種改良スキル。
集中してみると説明欄が出てきた。それによると、
・品種改良には魔力が必要である
・対象物も魔素で満たされている必要がある
・理をはずれた改良はできない
など。
品種改良には俺の願いを捧げればいいようだ。さすが、チートである。こういうふうにしたい、と願うだけで、次世代に影響が現れるのだ。
ただし、ムチャな願いは通らないようだ。理をはずれた、という点であるが、理の範囲は俺の日本での常識や経験が基準となるようだ。
改良の結果、2日で卵1個にまで追い込めた。そうした卵用の鶏以外にも肉用の鶏としても品種改良を続けた。
「あとは、鶏の数を増やしたいのじゃが」
「問題があるのか?」
「ダンジョンではの、総数に上限があるのじゃ」
「ああ、前にもそんなこと言ってたな」
「うむ。個体数は種によって違うのじゃ。制限数は育ててみんとわからんの」
結局、卵用の鶏の制限数は二百羽、肉用の鶏は百羽だった。肉用は十分だが、卵用はいささか心もとない。
「鶏の飼育のために管理人がいるなあ」
「おで、鶏は好きだど」
「ガルムがか?管理人できるのか?」
「ええど。あと、ブラックドッグを育てるど」
魔猫同様、黒犬もうちで面倒を見るうちにだんだんと賢くなっていった。しゃべることはできないが、ある程度の言葉なら理解できるようになり、前足で器用に作業するようになった。
鶏専用エリアは囲いで囲み、魔物がリポップした場合は黒犬が対処する。餌やりや卵の回収も黒犬が担当するようになった。
【小麦粉】
「結構、小麦の種類ってあるんだな」
「うむ。街ではの、小麦ではなく小麦粉しか売っておらなんだ。だから、周辺の農村を回ってみたのじゃ」
「ああ、それはご苦労さま」
「水車小屋で製粉をしておったわ。偏屈な職人が多くての、うっとうしいから農家まで直接買付にいったのじゃ。パン屋ギルドに聞いたのじゃが、農家によって小麦の品質が違うという話じゃ」
「品質とは?」
「パン屋ギルドには簡単な小麦品質チェックの魔導具があっての」
「ほお」
「小麦の粘り強さを表すらしい。粘り強いほどパン向きで、値段が上がるんだと」
「ああ、それだ。俺の欲しい魔導具だな」
「お主なら作れるのではないか?」
「ああ、まったくだな……おし、作り方が脳内に現れたぞ。ちょっとまってろ」
俺は店においてある強力粉と薄力粉を基準に小麦のグルテン量を測る魔導具を作った。薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、超強力粉の5段階評価である。
「よし、これでフレイヤの買ってきてくれた小麦を測定していくぞ」
こうして、俺は様々な粘り強さを示す小麦を得た。
◇
「小麦も栽培するとあっという間に成長するな」
「うむ。ダンジョンの外だと半年がかりらしいがの」
「この通り、ここなら1週間ほどで収穫だ。しかも、その後は適度な感覚でリポップするんだろ?」
「そうじゃ」
「ダンジョン様々だな」
◇
「フレイヤ、製粉の魔導具を作ったのはいいんだが、ちょっとこれらの小麦粉は使いにくいな」
「何故じゃ?」
「製粉してみたんだが、青臭いんだよ。小麦粉が」
「青臭い?草の臭いがするってことか?」
「ああ。俺にはあんまり好ましい臭いじゃねえ」
「消臭魔導具でも作ればいいではないか」
「小麦粉らしさもなくなる怖れがあってな。まあ、原因はわかってるんだ。ふすま(表皮)が青臭いんだよな」
「じゃあ、対策はできるのか?」
「うむ。ふすまを取り除くか、それともふすまからどうにかして草の臭いだけを消すか、だ」
「単純にふすまだけを取り除けばいいではないか」
「ふすまはな、栄養が詰まっているんだよ。それと、小麦の香りがプンプンしやがる。取り除くには惜しいんだよな」
「なるほど」
「それとな、パンの膨らみを邪魔する物質があってな。これらのふすまにもおそらくその物質が入っている」
「解決するには」
「品種改良、と行きたいところだが、手っ取り早いのは加熱かな。一緒に青臭い臭いもかなり減る」
「じゃあ、解決じゃの」
「結構大がかりな魔導具になるんだよな。ちょっとめんどくさい」
「仕方ないじゃろ」
「まったくだ。やるしかねーな」
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