第18話 卵と小麦1 エルフに変身するのじゃ
「次は卵か」
「森で卵となると、コカトリスの卵が有名じゃの」
「コカトリス?」
「頭は鶏冠の立派な鶏、尻尾はヘビ、という魔物じゃ。大きさはこれくらいからこれくらいじゃの」
「なんだ、それ。小さいのは鶏ぐらいだが、大きいのになると普通の鶏の数倍はあるって感じか」
「うむ。大きいのは手強くて凶暴だから避けたほうがいいの。味も固すぎて美味くない」
「小さいのは大人しいのか」
「こっちはすばしっこくて凶暴じゃの。まあ、大きいよりは対処しやすい」
「どっちにしても凶暴か」
「雑食性での、鋭いクチバシで肉をつっついて食べるんじゃ。爪なんかもがっちり相手をホールドするから、結構えぐいのじゃ」
「卵は美味いのか」
「うむ、肉と同じで卵はすごぶる美味じゃの。ただ、卵は年に一回しか産まん」
「ああ、そりゃ難しいな」
「そうじゃ。産卵場所もめったにわからんしな」
「じゃあ、どうする?」
「街で鶏卵を買ってきて、ここで孵化させるのじゃ」
「魔素が邪魔しないか?」
「植物の種と同じじゃ。森で卵から孵化させれば、魔素に丈夫な個体が生まれるのじゃ」
「ほう」
「しかもじゃ。多分じゃが、ダンジョンの外よりも上質な鶏が生まれてくるぞ」
「おお、いいじゃないか。じゃあ、卵は街で購入、っと」
「あとはね、小麦粉なんだよな」
「小麦は街で買うしかないのじゃ」
「問題はだ、小麦っていってもサラッとしたのとか粘っこいのとかあってね。それぞれに使い道があるんだ」
「なるほど。いろいろ購入して試す必要があるってことか」
「多分だけど、粘っこい小麦のほうが値段が高いと思うけどね。パンに向いていると言われているから」
「ふむ。まあ、街に言ってからじゃの」
「俺も街をみたいぞ」
「ああ、気持ちはわかるが、それはしばらくとっておけ。お主はまだ魔素のコントロールが未熟じゃ。ダンジョンの外に出ると、お主が魔素を振りまくモンスターになってしまうのじゃ」
「なるほど。俺が出張ダンジョンになるわけか」
「そうじゃ。お主に近づく人間がバタバタ倒れていく未来が見えるのじゃ」
「うわっ。人間やめてますって感じか」
「もう少し成熟したら、魔素のコントロールが上達する。あとの、街は意外と遠いのじゃ。今のお主の脚だと1日以上かかる。体力も少しパワーアップしてからじゃの。それまでの辛抱なのじゃ」
◇
「ダンジ、買ってきたぞ」
「おお、早かったな」
フレイヤは朝出発して、夕方には戻ってきていた。
「ダンジョン入口まで一瞬なのじゃ。転移できるからの。ダンジョンから近くのレンヌ街までは妾なら歩いて1時間ぐらいかの」
「俺だと1日の距離ってやつな」
「うむ。久しぶりの街は案外活気があったの。街の人々に注目されて、気分良かったぞ」
まあ、凄い美形に変身するからな。エルフ村があるというが、俺も行ってみたいぞ。
「卵は市場の品物を独り占めしてきたのじゃ。小麦も何種類かあったからの、できるだけ買ってきたのじゃ」
「そういや、金はどうしてるんだ?」
「魔石を換金じゃの。魔石は人間にとっても有益での、高く買い取ってくれるのじゃ」
「ほー」
◇
「うむうむ、鶏の雛の誕生じゃ。ちゃんと魔物になっておる」
卵は40度程度で保温してみると、すぐにヒヨコが生まれてきた。普通の鶏の卵であったが、ダンジョンに持ってくると魔素に馴染んで魔物として生まれてくる。
「普通のヒヨコに見えるが」
「魔素に馴染んでいるだけじゃからの。身体能力が強いことを除けば普通の鶏じゃろ」
餌は魔牛の骨粉、小麦、その辺の草。そして、チェリーの実の絞り粕が大好物。みるみるうちに大きくなり、あっという間に大人の鶏になった。
「さっそく卵を生んだのじゃ」
「さすが、ダンジョンだな。雛が孵化してから3週間ほどしかたってないよな?」
「そうじゃの。むしろ、ダンジョンの魔物としては成長が遅かったかもしれんの」
「そうなの?それにしても、いい卵だな。まず、殻が分厚く丈夫い。割ってみると黄身がこんもり盛り上がっている。臭いを嗅いでも変な臭いがしない」
黄身にも白身にもプリッとした張りがあり輪郭がしっかりとしている。
「何か料理をしてみるのじゃ」
「簡単に目玉焼きでも……おお、味にコクがあって美味いな」
甘みと香ばしさがあり濃厚な味だ。
一般的な卵を食べた時に感じる生臭さもない。
「うむ。かなり美味じゃの。幻のコカトリスの卵なみじゃ」
「元の世界なら最高級の卵として販売できるレベルだぞ」
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