第17話 アップルパイと森の魔水牛と新鮮なバター

「おまえ、本当に甘いの好きなんだな」


 ガルムが嬉しそうにジュースを飲む姿を見て俺はそうガルムにいう。ガルムは怒ると死の波動を放つ。その姿とはかけ離れている。


「おで、甘いの大好きだ」


「じゃあ、アップルパイでも作ってみるか」


 チェリーパイも作れそうなんだが、肝心のチェリーが甘すぎる。酸味のきいたのがいいんだ。


「アップルパイ?」


「お菓子な。スィーツ」


 材料は店にあるので問題ない。

 バター、薄力粉、卵、牛乳、砂糖、塩。

 砂糖はチェリー砂糖を使ってみるか。

 

「ただなぁ、砂糖と塩以外は新しく手に入れる必要があるな。店にあることはあるが、残りが心配だ」


「街に行って買ってきてもええが」


「まあ、あとで検討しよう」



 アップルパイの材料は、バター、薄力粉、卵、

 牛乳、無塩バター、砂糖、水。


「人間の街へ行けば手に入ると思うが」


「質が気になるんだよな。美味い・不味いはともかく、新鮮かどうかが問題なんだよ」


「では、バター。魔牛も当然ミルクを出す。しかし、無理じゃの」


「なんでだ」


「あの凶暴な魔牛を大人しくさせられん」


「ああ。おまえでもできんのか」


「うむ。ぶち殺したほうが早いの」


「穏やかじゃねえな。じゃあ、森じゃ無理ってことか?」


「森のダンジョンに魔水牛がおる。魔水牛は肉は筋が多くて不味いが、ミルクは魔牛ミルクよりもずっと濃厚で美味いのじゃ。そいつらと交渉して水牛ミルクをもらってもええの」


「交渉?そんな知性のある魔物なのか?」


「低位魔物と高位魔物の中間ぐらいかの。魔物共通語はしゃべれんが、なんとか意思は通じるのじゃ」


「どこにいるんだ?」


「8階層じゃ。ただ、交渉が可能とはいうものの、暴れると魔牛並に凶暴じゃから、注意は必要じゃぞ」


 ◇


「モー(こんにちはなのじゃ)」


「モ?(なんだ?)」


「モモモ(ちょっとあれがあっての。あ、これつまらんもんじゃが)」


「モ!(それは砂糖の実ではないか!)」


「モモモ(ああ、お好きなのじゃな。遠慮なくどうぞなのじゃ)」


「モモ!(遠慮なく頂くぞい)……モ?(で、要件はなんじゃ?)」


「モモモー(ウチはの、砂糖の実がたくさんあるんじゃ。での、お主等のミルクを分けてもらえんかの)」


「モモモ(交換ちゅうことか。ええで。ワシはミルクがでんが、呼んできてやろう。どの位いる?)」


「モモ(当面はこのぐらいじゃ)」


 といって手で大きさを示す。

 10リットルぐらいの容量である。


「モモ(では1頭で十分じゃの)」


「モモモ(ミルクと同じ大きさの実でええかの?)」


「モ(ええぞ)」


 ◇


「モモー(ありがとさん。また明日くるわ)」


「モモ(いつでもええぞ)」


「モモ(またあした)」


「(おお、ダンジ。お主も魔水牛語、わかるようになったか)」


「俺にマルチリンガル発現したわ。しばらくおまえらの会話聞いてたら、突然わかるようになったぞ」


「魔猫とかブラックハウンドは無理か」


「うーん、今のところアイツラの言葉はわからんな」


「まあ、そうじゃの。妾も言葉で通じ合っておらん。一種の念話で言葉を交わしておる」


「念話?」


「なんていうかの、言葉のやりとりというよりも、頭に図形とか記号とかを思い浮かべて相手に送信するって感じじゃ」


「へえ、全然わからん」


「ま、いいのじゃ」



 てなわけで、俺達は無事ミルクをゲットした。店に戻って飲んでみると確かにすごく脂肪分が濃い。ちょっとコップを動かしただけで、脂肪分がコップにこびりついてきた。コクがすごくあるのだが、それでも飲んだ後はさっぱりしている。



「じゃあ、バターを作るか」


「どうやるんじゃ」


「密閉容器にミルクを入れてふるだけ」


「原始的じゃの」


「ああ……でも、俺にスキルが浮かんできたぞ」


 といいつつ、俺はミルクの入っているコップに

 手をかざすと、脂肪分とホエーに分離した。


「浮かんでいるのがバターさ」


「ほう。水分は捨てるのか」


「白っぽい水溶液はホエーと言って、ミルクから脂肪分を除いた水溶液なんだ。栄養もあって、これも使い道があるんだが、当面は魔猫や犬たちの飲料にするか」


「そうか。奴らも喜ぶの」


「それにしても、脂肪分が多いな。店の計りで重さを計測してみるか……だいたい200ccのミルクに対して、10gのバターって感じだな」


「それは多いのか」


「牛乳だとだいたい5g程度しかバターがとれん」


「ほう、倍ということか。ちょっとなめされろなのじゃ……うむ、濃厚なバターじゃの。しかもくどさがない」


「確かに。しっかりバターの味がするのにすっきりしてるな。ほんのり甘さも感じるし」


「ふわぁ~と口の中で滑らかに溶けていく感じがなんとも優しい食感じゃの」


「フレイヤ、塩を少し入れてみろ」


「ふむ……おお、味の輪郭がはっきりして更に美味くなったの」


「料理に使うなら無塩バターになるが、パンに塗るなら有塩バターになるな。あとな、外に出したらすぐに味が劣化していくからな」


「ふむふむ、普段はマジックバッグに収納というわけじゃな」


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