第15話 飲み物 りんごジュースとりんご酒2
「よし、わかったのじゃ。その『エミちゃん』とやらに変身してやろう」
「いや、ちょっと待……」『ボワン』
「どうじゃ?」
ああ、俺のお気に入りが眼の前に。白猫なのに、髪の毛はふんわりロングウェーブのブラウンベージュ。オッドアイだった目も琥珀色にチェンジしている。服は店の制服で黒系ワンピミニ。
「その姿で街なかを歩くのか?」
その姿だと、日本なら問題ないかもしれんが、
ここでは?
「うーむ。脚が出過ぎでほとんど裸みたいじゃ。外の人間の世界ではロングスカートが標準じゃの」
「チェンジできるのか?」
「問題ない」
そのまま、スルスルとワンピが下に伸びてきた。
「これでええじゃろ。カーテシーじゃ」
と、優雅な挨拶を決める。カーテシーとは女性の伝統的な挨拶らしい。片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、背筋は伸ばしたまま挨拶をする。
そして、両手でスカートの裾をつまんで軽く持ち上げるが、注意が必要なのは、この所作はあくまでスカートが地面につかないためなのだ。
決してカーテシーの代用にはならないのである。
仮にスカートを持ち上げて足首を見せようものなら、それは大変品のない行為とみなされる。本筋は、膝を屈することにあるのだ。
くどいようだが、スカートをつまむのはスカートを地面につかせないためにある。スカートが短ければ、スカートをつまむ必要はないと思う。
「すぐに買ってきてもええが、他にも必要なものもあるじゃろ?」
「赤ワインはさほど急ぎじゃないからね」
「うむ。では、少し待っておこう」
「ていうかさ、エミちゃんの姿、他のにしてもらえないかな。気になって」
「確かにそうじゃ。おまえの目から
「いや、邪って、そりゃ風評被害すぎる。街に出かけるんだからさ、街の一般的な女性の風体にしたほうがいいんじゃ」
「確かにエミちゃんは異国人風じゃ。妾的にはそこがいいのじゃが。まあ、このドレスも少しばかり派手な気もするのじゃ。では」
『ボワン』
「いや、待て。それはエルフではないのか?」
「そうじゃ。知っておるのか?」
「エミちゃんよりも目立つんじゃないのか?美人すぎるし」
「エルフはそんなに珍しくはないぞ。エルフ村もこのダンジョンのそばにあるしの」
「エルフ村、あるんだ」
「うむ。妾の脚で2時間ほどかの」
「なるほど。それは近いね。俺も見に行きたい」
「うーむ、お主の脚だとどうかの。2日ぐらいかかるかもしれん」
「は?なんだよ、それ」
「お主は普通の人間よりも身体能力が高いと思うが、それでも未熟じゃからの」
「じゃあ、普通の人間なら?」
「5日はかかるの。虚弱なやつなら10日、いや、たどりつけんかもしれん。森の中じゃからの」
「それって、そば、って感じ?」
「妾にとってはな」
「ははは……でもね、そんなに美人だと困るだろ」
「うむ、ごくまれに近寄ってくるものもおるの。でもな、エルフは大抵人間など比べ物にならないような強者揃いじゃ。力も魔力もな」
「ああ、なるほど。下手なことをすると返り討ちに遭うんだ」
「そうじゃ。エルフ自体は自分から粗野な真似をすることはないが」
「ふむ」
「気に入らないなら普通の人間の女性でもええがの。そうだと、ちょっとつまらんではないか。せっかく街へ行くなら注目されたいのじゃ」
「おまえさ、人間って粗野で下卑た存在、みたいなこと言ってなかったっけ」
「そんなこと、言ったかの?確かにやっかいもので傲慢、強欲だとは思うが」
「似たような意味じゃね?」
「やっかいものはの、支配層じゃ。王族なんぞが最たるもんで、あと教会も酷いの」
「教会がか」
「ああ。宗教を隠れ蓑にして教徒から金をふんだくることしか考えておらん。ろくなもんじゃないの」
「王族はじめ支配層が酷い、となると、庶民は大変だろ」
「そうじゃの。まあ、時々一揆とかおこしておるの」
「一揆なんて、首謀者は極刑なんじゃ?」
「そうじゃ。じゃが、一揆起こそうなんて場合は餓死寸前とかそういう場合じゃ。後がないので死兵で向かっていく。個々は弱いが数がおるからの。支配者側は案外常備兵がおらんから、支配者側が負けることも多い」
「支配者が負けるのか」
「そうなると、良くて支配者一族が追放。まあ、大抵はお亡くなりになるの。そうなるとじゃ、勝ったもの勝ちになるのが人間世界の習わしじゃ」
「おお。常備兵は増やせんのか」
「常備兵は金がかかるのじゃ。じゃから、支配者側は一揆がおこらん微妙な線をついてくるのじゃ」
「生かさず殺さずってやつか」
「上手いこと言うではないか。そういうことじゃ。要はバランスよく、ってやつじゃの。まあ、大抵はギリギリまで絞り取れってことになるが」
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