第14話 飲み物 りんごジュースとりんご酒1

「焼き肉もええが、口をさっぱりさせたいの」


「水でいいか?」


「うむ、確かに上等な水なんじゃが、もう少し色気のあるものが欲しいの」


「店にあるものは今のところオレンジジュースとかだな」


「うむうむ、一杯所望するのじゃ」


「しかし、ドリンク類も充実させたいな」


「果物の実はあるか?」


「りんご、ぶどう、レモンとかなら少しはあるぞ」


「じゃあ、それを植えてみよ。先程、ハープ類とかも植えたじゃろ?あれと要領は同じじゃ」


「生姜とかネギとかはわからんでもないが、りんごとか結構大きな木になるぞ」


「まあ、やってみよ。駄目なら手を考えるのじゃ」



 庭には菜園が隣接している。とうがらし、にんにく、しょうが、ねぎ、白ごま、玉ねぎ、ミニトマトを栽培しているのだ。


 俺はその隣に林檎・ぶどう・レモン・柚を単純に土に埋めてみた。そして手をかざして促成栽培の魔法をかける。


 果物の木は翌日芽が出てきた。


「おお、発芽したではないか。ちょっと時間がかかるかもしれんが、しばらく様子を見るのじゃ」



 りんごにしてもぶどうにしても、果実を収穫するまでに数年はかかるのでは?ところが、これが森のダンジョンと言うべきか。果樹はすくすく成長を続け、なんと1ヶ月後には果実を実らせた。


「なんというか、ダンジョンって便利だな」


「うむ。魔素が成長を早めておると言われておるな」


「まあ、魔物がリポップしたり、俺が魔人だったり、不思議世界ではあるな」


「で、どうじゃ。果実の出来具合は」


「おお、全体的に皮が厚くてかなり酸っぱいな。元の品種はかなり甘いんだが。ただ、酸っぱさの向こうにあるのはかなり濃厚な味わいだな。香りもかなり鮮烈で濃いぞ」


「ふむ、料理に使えるか?」


「ジュースとしては酸味を抑えたい。ただ、料理とか酒にするのなら結構行けるんじゃないか?」



「ふむふむ。ではどうする?」


「まずは、りんごから酢と酒を作ってみるか」


 リンゴの発酵はシンプルだ。果汁を樽に入れると、果実の外果皮に取り付いている天然酵母が果汁に含まれる糖を養分として自然にアルコール発酵を始める。ただ、雑菌が繁殖して失敗する可能性がある。

 

 発酵が進んでから果実をし取り、発酵を継続。数ヶ月以上の発酵・熟成を経てりんご酒の完成だ。



「とりあえず、リンゴジュースは店にある砂糖で甘くしてみた。どうだ?」


「ほう。香りが素晴らしいな。甘酸っぱくて爽やかだぞ……うむ、飲むと適度な酸味と甘みのバランスがいいの」


「こっちは、俺が発酵魔法でりんご酒の発酵を急がせたものだ」


「これはまた澄んだ黄金色の美しい酒じゃの。リンゴを焼いたような香ばしい香り……飲んでみるとアルコールはきつくない。角のとれたまろやかな舌触りじゃ。実に繊細な味わいで適度な酸味と香り立つ香気が素晴らしいではないか」


「醤油同様、何度か試作を重ねてみたんだ」


「それにしても短期でここまで上等な酒を作るのか」


「俺も驚いている。こんなのを酒職人に見せたら怒られるな」


「それが大調理人・究極調理の技というものじゃ。もっとも、それはお前に下地があるからじゃぞ」


「下地というと?」


「単純に言えば、舌が肥えていえるということじゃ。おまえのイメージ以上のものは作れない。いかな偉大なるスキルがあってもな」


「なるほど」


 料理人としてのキャリアは20年近いからな。

 それと、日本人は世界に冠たる料理天国だ。


「例えば、年端のいかない子供に大調理人とか究極料理を与えてもまともに使いこなせん。そもそも、未熟なものにはそのような職業とかスキルは発現せんのじゃがの」



 俺は追加でリンゴ酢を作った。さらに蒸留魔法の発現を経て、リンゴのブランデーも作り上げた。


 続けて、グレープジュースとワイン、ワイン酢にとりかかる。普段飲みできる程度だがワインも出来上がった。


 ただ、ワインは白ワインだ。赤ワインは黒ぶどうと呼ばれる品種が必要である。


「ふむ。そのうち、街で購入するかの」


「誰が買うんだ?」


わらわじゃ」


「猫なのにか。大丈夫か?」


「妾は人間に変身できる。言葉も問題ない」


「は?」


「森の高位魔物の中でも長生きしている種にはいろんなものに変身できるものが多い」


「ちょっと、変身してみてくれんか」


「ええが、ふむ、どういう姿がええか頭の中で想像してみよ。妾がそれをスキャンするのじゃ」


 え?ひょっとして、俺の性癖とかばれる?俺はとっさに思い浮かんだのは、近所のガールズバーに勤めるエミちゃんだ。街では有名な美人で性格もよく、当然、大人気の女性だ。


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