第13話 熟成肉を焼いてみた……こりゃ、美味すぎる

「フレイヤ、ようやく熟成肉第一弾の試食会を行うぞ」


 とりあえず、1週間の熟成期間をおいた。俺の熟成確認スキルはまだ不十分だと言っている。だが、ちょっと待ちくたびれたんだ。


 だから、一部だけ解体する。



「おうおう、やっとか。待ちくたびれたのじゃ」


「ニャーニャーミーミー!」


「じゃあ、肉を焼いていくからちょっと待ってな」



 肉を焼くときに大切なことがある。


 最初の一歩は塩。


 焼く前に肉の表面に塩を振る。これは味付けをするとともに、表面の水分をとるため。肉を焼くときには表面の塩分と、この水分をキレイに拭き取る。こうしないと、肉にハリが生まれない。


 さらに、この塩が肉の表面にバリアを作る。これにより、肉の保水力がアップする。ジューシーさが保たれるということだ。


 ※胡椒をふる場合は最後にしたほうがいいと思う。

  最初にふると焦げてしまうからだ。



 次にすべきことは、温度管理。

 牛肉を焼く場合、ベストな温度というものがある。


 タンパク質は62℃付近で固まりはじめ、68℃で肉が収縮し水分が抜けていく。つまりこの温度帯を超えると肉が固くパサつくようになる。だから、この温度帯を越えてはいけない。


 では、低温で焼けばいいかというと、できれば60℃を上回りたい。細菌を死滅させるため。これ以下では食中毒リスクが出てくる。それに低温ではなかなか焼きあがらない。


 つまり、余裕を見て60~65℃になるよういかに温度コントロールするか。肉の低温調理が話題になっているのにはそういう理由がある。


 だから、弱~中火で焼いて、ある程度に達したら後は予熱で中心まで加熱する。



 3番めは肉の香ばしさを出すこと。これは強火で炙る必要がある。無論、短時間で。これを最初にするか、それとも最後にするか。俺はいつも最後に行う。



 そこで、俺には素晴らしいスキルが発現した。温度管理スキルだ。肉の内部が何度なのか数値で表されるのだ。それも表面とか中心とかの任意の部分。


 このスキルを使い、魔牛の温度設定をチェックしてみると、地球の牛と同じだった。つまり62℃前後で肉が硬化し始め、そして68℃前後で肉が反り返り、水分が表面に出てくる。


 細菌の死滅する温度というのはわからないので、60℃ということにする。



 この結果を受けて、俺は焼き肉魔導具を作成した。一気に肉の中心まで火の通る魔導具である。無論、温度コントロールはばっちり。これにより、肉の焼成時間を短縮させた。厚さ3cmほどの肉でも1分以内に焼き上げる。



「あー、この肉を焼いた匂い!たまらんのじゃ!」


「ニャーニャー!ミーミー!」


「ダンジ、はやく出すのじゃ!」


「ニャーニャー!ミーミー!」


「フレイヤ、できたぞ」


「おうおう、待ちくたびれたのじゃ!熟成焼肉のお目見えじゃ!」


「まずは軽く塩味で」


「うむ……おおお、なんてジューシーなんじゃ。魔牛とはこんなにまろやかで濃厚な味がするのか」


「ああ、俺も驚いたぜ。肉の香ばしい匂い、とろけるような舌触り、ジューシーで濃厚な肉の味、最後に鼻に抜けるコクのある肉の香り、これぞ肉ってもんだな」


「フギャー!ミャーミャー!」


「怒るなって。いま、お皿により分けるから……ほら」


 突撃する猫たち。人数分の皿を並べ、1皿1猫になるよう、並べていく。


 

「魔牛はこのダンジョンでも評判の肉じゃったが、これほどまでに美味しいものじゃったとは」


「俺もこんな美味しい牛肉は食べたことないな」


「しかもじゃ。やはり、体が整ってくるの。エネルギーマシマシ気分なのじゃ。やはりお主の調理したものには特別な力が加わるの」


「ああ、俺も力が湧いてくるぞ」


「これは店のオープンが楽しみじゃ。開店日を決めるのじゃ」


「あのな、これまだ美味くなるぞ」


「なんじゃと?」


「ちょっと待ちくたびれたから一部解体したが、これまだ熟成できる」


「待てんのじゃ」


「そうだろう。俺もだ。だから、少しずつ切り分けていくが、追加の魔牛を狩って補充するぞ」


「ふむふむ、善きにはかれなのじゃ」


「それとな、メニューが少なすぎるだろ。牛肉しかないし、ソースとかも充実させたいし。もうちょっとだな」


「早く知り合いの魔物たちに宣伝して自慢したいのじゃ」


「だから待てって」


 結局、魔牛を最大限に熟成させるには、1ヶ月以上かかることがわかった。魔牛は巨大だから期間を長めにとる必要がある。


 熟成スキルは取得しているのだが、初めての素材にはこのスキルを使えない。使うと変な熟成をしてしまうのだ。


 熟成スキルに限らないが、俺のスキルは結果を経験していないと使用できないものが多い。俺の経験がスキルを発動させる条件であり、経験がスキルを上達させていくのだ。



「では、今のところ店に出せるのはなんなのじゃ?」


「うーん、ちょっと待て。書き出してみるから」


 …………


「こんなところだな。ただ、量と値段はわからん」


「そうじゃの、肉はとりあえず1人前1kgでええじゃろ。価格は妾もわからん」


「というか、この世界に通貨ってあるんか?」


「人間の世界には通貨があるのじゃが、ダンジョンでは昔から魔石が共通通貨になるの」


「最小単位は?」


「ゴブリン魔石が基準となっておる。あの重さが500MSじゃの」


「MSってなんなの?」


「これは人間界からもたらされた重さでの。1MS=1gじゃ」


「そっか。じゃあ、適当につけるか。肉1kgでゴブリン魔石数個から10個程度ってことでどうだろう」


 正直言えば、俺は収入を気にしていなかった。だって、仕入れは自分で狩猟採取。儲けたって使うあてがない。魔石なら、自分で狩ればいいし。


「ええんじゃないか?ゴブリン魔石なら簡単に入手できるしの」


 ということで決まったのが次。


【焼き肉(ステーキ)】

 1人前は1kg。

 MSは魔石の重さ。


 4000MS

 ■ヒレ【シャトーブリアン】


 3000MS

 ■ヒ  レ

 ■サーロイン

 ■肩ロース【ざぶとん】


 2000MS

 ■肩ロース

 ■肩  肉【ミスジ】

      【ウワミスジ】

 ■肩バラ 【三角バラ】

 ■リブロース

 ■バ  ラ【カイノミ】

      【ササバラ】

 ■ランプ 【ランプ】

      【イチボ】

 ■マ  ル【ヒウチ】

      【まるしん】


 2000MS

 内蔵

 ■タン

 ■ツラミ(頬肉)

 ■ミノ(第1胃袋)

 ■レバー(肝臓)

 ■ハツ(心臓)

 ■ハラミ(横隔膜)

 ■サガリ(横隔膜)

 ■センマイ(第3胃袋)

 ■小腸

 ■大腸



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る