第11話 焼肉のタレ1 やっぱり焼き肉には醤油が最高
調味料はいろいろ在庫がある。しかし、早晩使い切ってしまうのは確実なので、どうにかして手にいれる必要がある。
で、まずは「塩」。
「岩塩でよければ、そこら中にあるのじゃ」
フレイヤのいうには、ダンジョンでは結晶化して柱となった岩塩がすぐに見つかるようだ。実際、店の近所でも岩塩がむき出してそそり立っている。岩塩のあるところは元は海だったとかだが、どうなってるんだろうか。
「フレイヤ、塩にも魔素が含まれているな」
「ダンジョン産のものはすべて魔素が入っていると思うのじゃ」
「だとすると、魔肉同様、魔素抜きをしたほうがいろいろいいかもな」
塩から魔素を抜いてみた。やはり、魔牛肉同様、味が良くなる。魔素入りは味がぼやけるんだよな。
色も白だけではない。ピンクとか黒っぽいのとか色々あって、味もそれぞれだ。意外と白色の塩は味がとんがっている。ピンクは甘味がありまろやかだ。黒色はほんのりと硫黄臭い。
俺はピンク色を使ってみることにする。
次は、醤油。この世界では醤油はないようだ。少なくとも、フレイヤは芽にしたことがないという。しかし、焼き肉といえば醤油だろ?あの焼き肉の芳ばしい香り。西洋風のソースでは出せない香り。
運良く、大豆が数kg残っている。
これで大豆を栽培できないか?
「一度試しに植えてみるのじゃ。発芽するかどうかわからんが、発芽さえすればダンジョンでは植物の生育は非常に早いのじゃ」
試しに、大豆を数粒畑に植えてみた。
「凄いな。種をまいた日に発芽してるぞ」
「おお、上手くいったか。それなら生育は早いぞ。ちなみに、お主には促成栽培スキルもあるはずじゃ。それも少しずつ使用してスキルレベルをあげておくのじゃ」
「おお、メニューにあるぞ。んじゃ、『促成栽培』!」
俺の手からキラキラと発芽した芽に光が注がれる。
「最初はやりすぎないようにな。慣れないうちは効果があんまりないのじゃ。無理して使うとおかしな成長をしてしまうのじゃ」
俺にはこのあとも様々なスキルが発現するが、基本は『経験』だ。俺の経験値以上の効果は望めないのだ。促成栽培スキルであれば、まず大豆の成長過程を知り、その成長速度を少しずつ上げていく。そうしてスキルレベルを上げることで十全な成長促進をはかれるわけだ。
「フレイヤのいうとおりだ。発芽して1週間で収穫できたぞ!これって、促成栽培スキルのおかげか?」
「今回のは主にダンジョンの性質じゃの。ダンジョンでは動物・植物を問わず猛烈な成長を遂げるのじゃ」
ダンジョンは不思議な世界だ。僕たちの一般的に考える理とは随分と違っている。収穫の早さもそうだが、農業をするにあたっての障害、病気・害虫・連作障害・大雨・干ばつというものがダンジョンにはない。
味も悪くない。残っていた大豆と比較してみたが、違いがわからなかった。
それで、どんどん大豆を栽培している。成長促進スキルも少しずつ向上していき、大豆だと種を植えてから数日で収穫できるようになった。
ああ、収穫した植物からは魔素抜きを行っている。
問題は発酵だった。
醤油を作るにはだいたい次のような行程になる。
小麦を炒る。
小麦の粉砕。
大豆の蒸煮。
大豆+小麦に醤油用種麹を種付けする。
できた醤油用麹と塩と水を仕込む。
1年かけて発酵させます。
絞る。
火入する。
このうち、種麹を見つけるのが大変だ。
ここは俺に発酵スキルが発現した。
「発酵もな、何度も試して技術をあげるのが肝心なのじゃ」
フレイヤはそういう。俺のスキルは成長促進スキルでも見られたように、経験がものをいう。経験値を重ねないとスキルレベルは向上しない。
モノは試しに、醤油を試作してみた。
結局、数日で醤油ができるのだが、まずかった。
「技術をあげるにはの、イメージが大切なのじゃ。醤油なる調味料のお主のベストな味を強くイメージする。そうして少しずつ味を高めていくのじゃ」
ほう。
フレイヤは醤油の発酵は初めて見るが、人間界でワイン醸造は見たことがあるという。そこでこのスキルの癖を知ったという。
「醸造魔法を知っている人間がいるんだ」
「うむ。元来、ワインの醸造はそんなに複雑ではない。ぶどうをほっておいたら酒になった、という話もあるぐらいじゃからの。しかし、確実に高品質のワインを作る、ということならば話は違ってくる。だから、ワイン醸造家にはわりと醸造魔法持ちがおるのじゃ」
5回めの試作で、口にできる醤油ができた。さらに5回の試作で、ある程度納得できる醤油ができあがった。
「ほう。なかなか美味な調味料であるな。甘味、酸味、塩味、苦味が複雑にからみあっておる。しかも味が深いの」
「味の奥行きには『旨味』が関係してるぞ」
「旨味とな?そんな言葉は初めて聞くのじゃ」
「ああ。醤油をしっかり味わってみると様々な味がする。甘味、酸味、塩味、苦味がな。その醤油を味わった後にずっと尾を引く微妙な余韻。それが旨味さ」
「ほう」
「多分、以前から経験してたと思うぞ。ただ、意識してなかっただけで」
「ふむ。興味深いの。なかなか良いではないか」
フレイヤのお墨付きも出た。
フレイヤは猫のくせにやけに味覚が肥えている。
ただ、店においてある醤油とは味が違う。美味い・不味いという差ではない。何か方向性が違う感じだ。俺達日本人が中国醤油に感じるような違和感と似てるかもしれない。まあ、中国醤油といっても多くの種類があるので一言ではいえないんだが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます