第10話 魔牛食材眼力発現 俺の目利きは世界一

 魔牛の狩猟において、俺には早々に鑑定技術が発現した。食材眼力スキルである。A5ビーフとか言われている評価のことだ。これについて説明する。


 この評価は牛肉の味を保証しているわけではない。最初に、それを大声で言っておきたい。A5だから美味しいと決まったわけじゃない。C1だから不味いということもない。



■アルファベットのA/B/C


 肉の歩留まり、対象から肉がどれだけ取れるか。

 販売業者には重要な項目だ。

 しかし、消費者には関係がない。

 もちろん、味とも関係はない。


■1~5の5段階評価


 ①脂肪交雑

 ②脂肪の色沢と質

 ③牛肉の締まりときめ

 ④牛肉の色沢

 の4項目について、それぞれを5段階評価する。


 ①脂肪交雑 サシ・脂肪の入り方

  サシが入っているほど高得点


 ②脂肪の色沢と質

  白またはクリーム色であるほど高得点。

  脂肪のきめが細かいと、とろけるような食感を

  得られやすいとされている。


 ③牛肉の締まりときめ

  締りがよく、キメが細かいほど高得点。


 ④牛肉の色沢

  明るすぎず濃すぎないと高得点。


 最も低い項目のランクが、その牛肉の最終的な肉質等級となる。たとえば、脂肪交雑が「3」、他の全てが「5」の場合、肉質等級は「3」となる。


■赤身肉の評価


 俺の鑑定には赤身肉の評価も入っている。うまみ成分であるオレイン酸などの不飽和脂肪酸の含有量を測定するのだ。


 オレイン酸などの量が多いと脂が低い温度でも溶け、口溶けが良くなる上に、牛独特の香り「牛香」が際立つようになるという。


 ◇


 さて、長々と評価基準を書き連ねた。ここで再度強調するのは、A5は肉の味を評価したものではない、ということだ。


 特に、サシの問題。立派なサシが入っている、というのは、高級牛肉を証明する言葉だ。


 しかし、サシを敬遠する人もいるのだ。

 くどすぎるとして。


 俺がそうなのだ。小さい頃は脂肪が苦手だった。大人になって脂肪を食べられるようになったが、脂肪だけなら未だに食べられない。


 焼肉屋で霜降りカルビは最高級とされる。が、俺は注文したことはないし、誰かが注文しても1切れぐらいしか食べない。食べないこともあるぐらいだ。


 一番好きな部位は腸だ。8割以上は腸を注文する。あとはタンだが、タンは誰かが注文するから、俺が注文することは殆どない。


 だから俺にとってはA5の牛肉であってもちょっと困る。問題はサシの入り方なのだ。アンガスビーフのような赤身肉が好きだが、アンガスビーフは日本基準だとA2とか3?


 都合がいいことに、ダンジョンの魔牛にはA5はいない。サシがびっしりなんて牛はいないのだ。正直、A5ビーフは肥満牛だもんな。野生の牛にはありえない。


 ただ、脂肪が少なすぎても困る。適度なサシが入っていると、肉質が柔らかく味も良くなると思う。


 サシ以外の部分については、和牛評価の最上位のほうが味がいいかもしれない。


 結局、サシ部分が評価2か3、それ以外の評価が5というのが俺の選ぶ牛肉だ。そして、俺は魔牛を見た瞬間にSFのように視野の横に評価数値が並ぶ。


 あの評価はある程度審査員の主観基準なんだが、俺の鑑定評価はどうなんだろう。俺の基準に合わせてくれるんだろうか。それはともかく、便利なスキルである。



 このスキルをもって、今回ゲットした魔牛肉を評価してみる。まずその前に。これは日本での評価基準だ。ここは異世界のしかもダンジョンの中。対象は牛とはいえ、魔物だ。果たしてこの評価基準でいいのか。


『ご当地限定基準に合わせてあります』


 メニューを開き、スキルをなぞると、説明文が出てくる。この『食材眼力スキル』には以上のような説明文がつけられていた。魔牛に合わせた評価がなされるということだろう。うむ、これもある意味チートだよなあ。


 で、このスキルを持って魔牛を評価してみると、A2と出た。サシの評価が2であることを除けば、全て最高級評価だ。つまり、俺的には最高級の肉ってことだ。脂肪の多い肉はあんまり好きじゃないからな。


 そして、熟成室を作る。庭の一角に地下室を設ける。灯り・エアコン・加湿機の魔導具を作成。そこに設置した。


 エアコンで0℃近い冷風を常時吹き流し、加湿器で乾燥を防ぐ。これで1週間ほど様子を見てみる。


「フレイヤ、肉は熟成に最低1週間はかかると思う。でも、待つかいはあると思うぞ。肉が分解されて旨味がダーッと出るんだ」


「おお、仕方ない。期待して待つぞ!」



 なお、この過程を通して俺には熟成度確認スキルが備わった。熟成と腐敗は紙一重である。


 熟成はタンパク質がアミノ酸に分解されること。分解を促すのは肉自体の持つ酵素。自己分解であり、旨味と香ばしさが増す。


 そして腐敗は雑菌による分解である。腐敗臭により臭くなる。温度を零度にして腐敗を防ぐ。


 熟成と腐敗は似て非なるものなのだ。腐敗度もチェック可能である。これで熟成の度合いを確認しつつ、熟成を深めていける。


 加湿器は当然肉を乾燥させないためだ。冷蔵庫に肉を入れておくと白く乾燥してくる。あれを防ぐためだ。

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