第9話 ホルモン焼き肉だ!肉熟成室の設置

 魔牛草原でなんとか牛を狩った俺たちは店に戻ってきていた。


「ニャーニャーミーミー」


 店に入ると目ざとい猫軍団がヨダレを垂らして俺に群がってきた。



「ダンジよ、さっそく焼肉じゃの!」


「バカ言うなよ。解体したすぐでは固くて食えたもんじゃねえぞ」


「うむ?そんなもんか?妾はいつもすぐに食べるが」


 肉のタンパク質を熟成により分解してアミノ酸にする。そうすると、柔らかさと旨味が格段にアップする。特にジビエ、野生の獣は脂肪分が少なく、熟成必須である。


「おまえらは魔素処理せずに食べるからな。急がんと森に吸収されてしまう。まあ、ちょっと待て。内蔵ならすぐに食べられるからな」


「おお!」



 俺は店先でシートを敷き、分割された魔牛を取り出した。そして、部位を確認していく。


「ふむ、単純に全体を分断しただけか。血抜きはまだだな」


「そうなると、魔素も抜けておらんの」


「身体構造は普通の牛と同じに見えるぞ」


 牛の内臓はハツ(心臓)、レバー(肝臓)、ミノ(第一胃)、センマイ(第三胃)、ハラミ(横隔膜)、サガリ(横隔膜)、ヒモ(小腸)、シマチョウ(大腸)、タン(舌)、テール(尾)など25種類がある。


 確認したあと、俺は再び包丁を振るってみる。


「解体!」


 おお、内蔵は見事に部位ごとに分かれたぞ。

 血や内容物もキレイさっぱりと消えている。


「うむ。魔素も抜けたようじゃ」


「わかるのか」


「お主も慣れれば分かるようになるぞ。そうすれば、魔物の気配をキャッチしたりできるようになるのじゃ」


 ああ、それは便利だ。

 狩りって、斥候は物凄く大事だからな。


 

 俺は切り分けられた内臓の処理にかかる。内蔵は傷みが早い。当日中に処理する必要がある。

 

 だが、この魔牛はマジックバッグに入れているため、時間経過が起こらない。あくまでマジックバッグから出したら足が早い、ということである。


 驚くことに、俺の頭の中ではこれからの処理行程が浮かび上がっていた。


「消臭!」


 内臓の血と魔素、そして内容物は『解体』スキルで取り除かれている。


 通常は内蔵は塩をしっかり揉み込み、流水で洗い流す。牛乳や小麦粉を使ったり、下茹でしたりして臭みを取ることもある。


 しかし、俺の消臭スキルは手をかざすだけであっという間に臭いが消えた。俺は食べやすい大きさに切って食べる分を取り分け、短い時間ではあるが熟成をかける。


 残りはマジックバッグに放り込んだ。



「よっしゃ、これで焼いてみるぞ」


 俺はテーブル用コンロを取り出し、網を使って内蔵を焼き始めた。ジューという音とともに、あたり一面に焼き肉の匂いが充満する。


「おお、煙が凄いの。妾にまかせよ『清浄』」


 フレイヤが魔法を唱えると、煙は消えていく。


「お主、おそらく魔導具作成スキルがあるはずじゃ。簡単な空気清浄魔導具を作れんかの」


「魔導具か?うーむ、お、スキルが発現したぞ。よっしゃ、無煙ロースターを作るぞ!」


 俺は焼いている網に空気清浄魔法を組み込んだ。

 網の全面に魔法の詠唱を書き込んでいくのだ。


「うむうむ、いい出来じゃ。煙があがらん」


 ちなみに、コンロは火魔法を使う。店が転移したときに、他の主たる熱源は火魔法に置き換わったようだ。エネルギーには魔石を使用する。



「フレイヤ、将来的には焼肉専用のタレを作るつもりだが、今日は醤油・塩・マヨネーズあたりで食べるか」


「ほう。テーブルの上に並べてみよなのじゃ」


「いや、その前に、お前塩とか大丈夫か?」


「妾たちは魔物なのじゃ。なんでも問題ないぞ」


 俺は前世の猫とは全くの別物だと思い直し、テーブルに小皿を並べ、醤油と塩、マヨネーズを持っていく。


「おお、どれも実に美味いのじゃ!妾はまよねーずとやらを一番気に入ったぞ!」


「そりゃよかった。転移前の世界のものだからな、無くなる前に作るつもりだよ」


 マヨネーズだけじゃない。醤油や他の調味料も作るつもりだし、塩や砂糖とかも探してこなくちゃ。


「美味だけではないの。体のエネルギーが湧き上がってくるような感じじゃ」


「ああ、俺も感じるぞ」


「魔牛自体の効果か?いや、いままででも魔牛を食したことはあるが、こんなことはなかったのじゃ。すると、やはりお主の調理スキルのお陰かもしれんんの」


「俺の料理に特別な効果があるということか?」


「いろいろ食べてみれば判断つくじゃろ」



「ニャーニャー!ミーミー!」


 フレイヤが食べるのを見て他の猫たちが大騒ぎだ。

 テーブルに前足をかけて必死に覗き込んでいる。


 だが、申し訳ないが調味料はなしだ。手持ちが少ないからな。10頭に調味料を使うとすぐになくなってしまう。


「おまえたちもすぐに調味料を味わえるようにしてやるからな、今日のところはこれで勘弁しろ」


 俺は焼き上がったすぐそばから猫たちの皿に内蔵を移していった。勿論、俺も食べつつ。



 内蔵は10kgもあれば十分だと思っていたが、猫たちは結構な大食漢だった。すぐになくなってしまい、バッグから追加を取り出すことになった。


「内蔵は1週間もあれば食べつくすな」 


 ちなみに、牛の肉は体重の3分の1程度、可食内蔵は5%程度と言われている。魔牛は2tという話だから、肉は600~700kg、可食内蔵は100kg程度ということになる。



 なお、内蔵の足が早いのは、内臓にはいろいろ雑菌がうろうろしており腐敗が早いからだ。俺は殺菌スキルもものにした。これで内蔵を殺菌し、熟成期間を伸ばすことに成功した。


 むろん、とんでもなく美味い内臓の出来上がりだ。


 ついでに言うと血抜きを急ぐのも内臓と似た理由だ。新鮮な血は臭くない。しかし、血管の中には雑菌がうようよしておりすぐに腐るのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る