第8話 凶暴な魔牛とマジックバッグ

「美味しい水を引っ張ってきたのじゃ。じゃあ、次は肉なのじゃ」


「肉ってさ、やっぱり狩猟するってことだよね」


「そうじゃの」


「魔物なんだよね」


 あのさ。俺はちょっと前までただの民間人だったの。都会の。狩猟とか簡単に言われても。まあ、ハンター経験はあるけどさ。ベテランの後についていっただけだけど。


「うむ。まずは、魔牛でどうじゃ?このダンジョンでは一番人気じゃ」


「牛かあ。やっぱり強いのかな」


「そうじゃの。人気があっても、手に入りにくいのじゃ。ブラックハウンドいたじゃろ。あれが10頭がかりでも倒せんの」


「は?」


「巨体なんじゃ。体高が2m以上。体長は3m近く。体重は2トンぐらいかの」


「なにそれ。サイとか象ぐらいの大きさってこと?」


「皮膚が非常に堅固で、足も非常に速い。100km近い速度が出る。での、走る要塞とも言われておるのじゃ。これでぶちかましをしよる。破壊力は半端ないのじゃ」


「うそ」


 それって高速道路で大きめの車が突っ込んでくるのと同じってことだよね?


「しかもじゃ、集団生活を送っておるからの。数千頭の群れじゃ」


「その牛を狩れって?」


「そうじゃ。気性は非常に荒い。草食魔物じゃが、下手な魔物は近づきもせんぞ。策もなく近づけばあっという間にミンチじゃの」


「えー、それを俺が狩れって?無理ゲーだろ」


「まあそういうな。わらわも手伝ってやる。とりあえず、1頭を手に入れるぞ」


 ちなみに、体高は、地面から牛の肩までの高さ。

 ホルスタインは、約140~150cm前後。

 魔牛は2mを優に超える。

 体長は肩から尾のつけね部分。

 ホルスタインは、170cm前後。

 魔牛は3m近く。

 ホルスタインの体重は7~800kg。

 魔牛は2t前後。



「まずはの、マジックバッグを確認しろなのじゃ」


「マジックバッグ?」


「そうじゃ。知らんのか?」


 知ってるよ。ファンタジーではお馴染みだ。でも、僕にもあるのか?


「そろそろわかっても良い頃じゃろ。お主のスキル【究極調理】は調理に役立つ大抵のスキルを発現させるのじゃ」


 えー。


「じゃあ、【マジックバッグ】欲しいなー。え?」


 僕の目の前に空間の切れ目ができてるぞ。


「おお、そうじゃ。それがマジックバッグじゃ。容量は無制限で、時間も止まるからの。狩りにはうってつけじゃ。森の高位魔物なら標準装備じゃがの」


 俺はまごつきながらも、包丁を入れてみる。

 包丁は牛刀包丁、万能包丁、三徳包丁、ペティナイフ、刺身包丁、料理バサミ、砥石3点セット、がナイフブロックに収まっている。随分と無理して買った、自慢の高級包丁だ。


「おお!」


 俺はマジックバッグに手をいれ、

 「この包丁!」

 と考えただけで、その包丁を取り出せる。


 なんだか、格好いいぞ。体のキレもいいから、瞬時にナイフを取り出せるのだ。これもちょっと決めポーズを研究してみよう。



「魔牛を仕留めるスキルは『解体』でええかの?」


「やっぱり、俺がやるんか」


「当たり前じゃろ。お主は料理に関しては最強スキルの持ち主じゃ」


「狩りも料理に入るんか?」


「そうじゃ。でな、魔牛をしとめるために注意事項がいくつかある。それを知って、解体スキルに組み込むのじゃ」


 フレイヤが言うには、魔物の魔素を消さないと魔物は直にダンジョンに吸収されてしまう。解体時に消したい要素、魔素とか、血とか内臓の内容物とかを強く意識せよ。


「解体スキルを使うには、対象の身体構造を理解しておく必要があるのじゃ」


「身体構造?じゃあ、最初は魔牛の解体をする必要があるってことか?」


「そうじゃの」


 うわっ。解体経験はあるような。俺はハンター免許を持っていて、鹿とか猪とかを解体したことはあるというか、ベテランが解体するのを後ろで見学してたんだが。


 でも牛は初めてだ。まあ、仕方がない。

 

「じゃあ、最初は目に付く部位だけ切り離すって感じにするしかないな?」


「まあ、そうじゃの。というか、わかっておる部分のみ解体されるぞ」


 そうか。初戦だからな。試しにやってみるか。


 ◇


 魔牛がいる層は9階だった。なんてことはない。俺たちのいる層は10階。しかも、俺の店の近くに9階へと至る出入口が。出入り口をくぐると、そこは見渡す限りの草原と魔牛だった。


「凄いな。本当に数千頭はいそうだな」


「うむ。実際は千頭前後といったところじゃがの。なんにしても、大きな音を立てるでないぞ。頭も低くな。奴らは案外いろいろと敏感なのじゃ」


 ミンチにはなりたくないからな。俺は言われた通りに頭を低くした。すると、俺には気配遮断スキルが発現したようだ。


「おお、ええではないか。お主の存在を探知しにくくなったぞ」


「じゃあ、どうする?」


「妾が1頭を誘ってみるのじゃ。注目というスキルを使う。近づいてきたら、お主の包丁技を試してみよ」


「駄目だったら、どうすんだよ」


「一目散に10階に逃げるのじゃ。ええか、何度も繰り返して、通用するまで包丁スキルを上げるぞ」


「うげええ」


「それでは行くのじゃ」


 フレイヤはツーと1頭の魔牛に近づいていった。その魔牛は少しだけ魔牛集団から離れた位置にいたのだ。すると、魔牛はフレイヤに注意を向けた。そして、興味のありそうな仕草をしつつ、フレイヤに近づいていった。


「おお、フレイヤのやつ、うまいもんだな。こっちに魔牛が寄ってきたぞ」


 俺はドキドキが最高潮に達しようとしていた。


「よし、今だ!」


 俺は覚悟を決めて魔牛の前に飛び出した。


「解体!」


 包丁を袈裟懸けした。


「うわっ、駄目だ」


 魔牛はすぐに怒りを表し、突入する仕草を始めた。


「うわわわ、撤退!」


 俺はすぐさま10階層への入り口に飛び込んだ。


「うーむ。上手く行かなんだの。じゃが、繰り返せば必ず上手くいくはずじゃ」


 そんなに簡単にいくかよ。

 今だって、死ぬ気で頑張ったんだぞ。



 だが、何度かトライしているうちに、魔牛の皮膚を切り裂きはじめ、ついには魔牛の解体に成功した!


「わー!回収!回収!」


 他の魔牛が俺に気づいて向かってきている。バラバラに解体された魔牛ブロックはタッチするだけでそのままマジックバッグに吸い込まれていった。そして魔石もあわてて拾い上げ、ダッシュで10階層へ避難した。


 なお、この時点では細かい部位に解体しない。というかできない。さりとて1頭まるごとは重すぎるので(2トンあるからな)いくつかの部位に分解している。


 当然、骨付きだ。熟成はなるべく骨ごとまるっとやって、熟成後に細かい部位に解体するのだ。



「思ったよりも早く成功したの。やはり、お主の究極調理なるスキル、かなりのチートじゃの」


 フレイヤは本日中に成功するとは思っていなかった。それが数回のトライで魔牛を解体してしまい、驚いていた。俺は天才か?


「なむなむなむ」


「お主、何をしておるのじゃ?」


「命を奪ったんだから、祈りの言葉を捧げていたんだが」


「リポップするってゆーたが、忘れたのか?」


「覚えてるよ。でもな、ブラックハウンドとかは向こうが襲ってきたんだから問題ないが、こいつはこっちから仕掛けたんだからな。ちゃんとまともにリポップしてくれって願っているんだよ」


「ふぬ。よくわからん感覚じゃの」


 俺も説明できんもんな。この気持ち。


 よくわからないながらも、フレイヤも俺につきあって祈りを捧げてくれた。


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