2 魔牛

第7話 お菓子大好きな水の精霊と泉水

「まずは店を開く前に食材調達じゃの。お主も調理人じゃ。食材で一番大切なものは何じゃと思う?」


「こりゃ、範囲が広いな……うーん、水とか?」


「そうじゃ。魔物であろうと人間であろうと、水がないと生存は不可能じゃ。しかも、良い水は料理の味を左右する」


「うむ。それはよくわかる」


「じゃからの、まずはこの店に良水を引っ張ってくるぞ」


「この店の水道、案外いい水が出るんだが」


「ああ、その水道は森の伏流水じゃろう。悪くはない。じゃが、一番ではない。もっと良い水がそばに流れておる。そこに向かうぞ」


「もっと良い水があるのか!」


「ああ、そうじゃ。お菓子とかあれば持っていきたいんじゃが」


「かまわんけど?何に使うんだ?」


「ふふ、行けばわかるのじゃ」


 ◇


「いやあ、結構歩くな。ずっと森の中だから地形がわからんが、ずっと山を昇ってるよな?」


「うむ。山というかなだらかな丘というかそんな感じじゃ。もう少し先に泉がある」


 ………


「ほう、ここか。泉というよりは随分と広いな。それにしても綺麗な水だ。ものすごい透明度だな!」


「ここはの、水の精霊が多く棲まうんじゃ」


「え」


 俺は驚いて水面に目を凝らしてみた。すると、キラキラとした光の中に何か動くものが。それはやがて像を結び始めた。


「おお、これが精霊!」


 薄い水色のAラインワンピースを来た美しい女性が何体も浮かんでいる。身長は30cmぐらいだろうか。背中に薄い羽が生えており、ひらひらと動いている。


「こんにちわ」

「こんにちわ」

「こんにちわ」


 おお、精霊さんはフレンドリーだ。うーん、声も実に清らかだ。好感度マックス。何よりも可愛い。


「久しぶりじゃの。これはつまらんもんじゃが、みんなで食べてほしいのじゃ」


 フレイヤは持ってきたお菓子を精霊達に渡す。


「ありがとう!」

「ありがとう!」

「ありがとう!」


 おお、お菓子の周りをブンブン飛んでるぞ。

 なるほど。彼女たちの大好物ってわけか。


「ちょっと水を拝借したいんじゃが」


「どうぞ」

「どうぞ」

「どうぞ」


 俺もへこへこお礼を言う。

 妖精たちはお菓子を抱え込んでニコニコだ。


「よし、ダンジよ。精霊の許可をもらったからの。水をすくって飲んでみるのじゃ」


「おお、最高に美味いぞ!」


「そうじゃろ。水質は最高。しかも滋味を多く含む美水じゃ」


「うん、体の奥まで洗われるような気分になるぞ。まろやかで口当たりがいいのは硬度が低いせいか。飲んだ後も繊細で味わい深い味が微かに糸を引くな」


「じゃあの、ここから店まで水を引っ張るぞ」


「は?どうやって?」


「お主の土魔法を使うのじゃ。掘削魔法という言葉を念じてみよ。スキルに表示されるはずじゃ」


「掘削魔法?……おお、メニューに現れてきた!」


「うむ。じゃあ、念じてみよ。この位置と店の場所の位置確認からじゃ」


「……ああ、頭の中に地形図が浮かんできた。随分と高低差があるんだな」


「まあ、自然に水が流れるようにな。では2つの地点に水道管が繋がれるイメージを持ってみよ」


「……おお、パイプが繋がったぞ!」


「うむ。高低差が足りなくて逆流するような場所は赤く表示されるはずじゃ」


「何箇所か赤いぞ」


「そのルートは最短ルートが表示されておるはずじゃ。代替ルートメニューがあるじゃろ?」


「ふむふむ、あるぞ。おお、いくつかルート候補が浮かび上がったわ。全部、グリーンだ。距離も表示されるな。選択するぞ」


「よし、じゃあGOじゃの」


「えっと、GO!」


「うむ。では、店に戻るか。店のそばにため池ができておるはずじゃ。じゃあ、水の精霊さんたち。お邪魔したの」


「またきてね」

「またきてね」

「またきてね」



 ちなみに、この泉には定期的に訪れることになる。お菓子を持って。訪れると、水の精霊さんたちが僕たちの周りをというかお菓子の周りをグルグル回って大騒動だ。


 それにしても、精霊たちは可愛らしいくてほっこりする。それに、訪れると体が健康になる気がする。肩こりとかもなくなるし。


 ◇


 店に戻ると、本当に池ができていた。というか、店の回りが水浸しになっていた。このままだと店が水没する。俺はあわてて池を作って、池から水を逃がす川を掘った。


 そして、店へは掘削魔法で店に何本かある蛇口の一つに泉水を接続した。


「それにしても凄いな。店の蛇口は外に1本、シンクに2本、トイレに2本ある。そのうち4本は森の伏流水だ。日本なら名水100選間違い無しの水質だぞ。その上に、この精霊の泉水か」


「じゃあの、お茶を所望するぞ」


「紅茶でいいか」


「うむうむ、久しぶりじゃの」


「そうなのか」


「現状の人間の世界じゃと、コーヒー、緑茶、紅茶、その他野草茶がある。じゃが、コーヒーと緑茶はかなり遠方じゃ。このダンジョンを出たところにある王国では紅茶か野草茶じゃの。紅茶は高級品とされておる。船で運ばれておるらしい」


「さすが、ものしりなんだね」


「もう数百年以上は生きておるからの。それに、寿命が来ても転生するのじゃ。わらわの魂は永遠なのじゃ」


 ほう。

 羨ましいような羨ましくないような。


「それとの。随分前じゃが、転生者がおったのじゃ。お主のようなのが。日本から来たと言っておったぞ。そいつにいろいろ教えてもらったのじゃ」


「へえ、日本からの転生者か。大先輩がいるんだな」


「そうじゃ。随分と世話になったが、奴は職業・スキルを天元突破して大賢者となり、元の世界に戻ったぞ」


「え。戻れるんだ」


「うむ。なんでも、妻と子供がいたらしい」


「でも、浦島太郎なんじゃ……」


「おお、おお、やつの口からも出たの。その浦島太郎。懐かしいの。心配せんでもええ。希望した地点・時点に転移できる。転生直前の時点に戻っておるはずじゃ」


「ええ?スキルとかは?」


「それは消えんと思うぞ。奴の転移はわらわらの転生と同じじゃ。記憶も能力も保ったまま転移したはずじゃ。わらわらは幼生体になるがの。奴はおそらく日本から転移直前の姿になったはずじゃ」


「大賢者とか言ったよな。魔法とかも持ったままか」


「そうじゃ。日本というか、お主らの元の世界では魔法とかないんじゃろ?今頃チートしまくりじゃろな」


 うーむ。

 便利で凄いけど、それはそれで結構たいへんかも。

 ばれたら、大変なことになるもんな。


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