第6話 俺は剣聖真っ青の包丁使いだった2 みじん切り!

「それにしても、フレイヤ。おまえ、物知りだな」


「もう数百年、ひょっとしたら千年ぐらい森で暮らしておるからの」


 千年?

 下手すると9尾の猫かもな。


「ゆーておくがの、ダンジョンで1000歳というのはヒヨッコとまではいわんがそれほど長生きというわけではないのじゃ」


「そうなのか?」


「このダンジョンだと、1万年以上前からあるらしいからの。ダンジョン主も同じ年齢になるの」


「ダンジョン主?」


「最下層に住んでおる」


「最下層って、何階層なんだ?」


「無限階じゃ。階層が多すぎることもあるのじゃが、ある階層まで行くとその先の階層は幽玄の世界になるのじゃ」


 幽玄の世界って……


「そのうち、ダンジョン主にもあえるじゃろ。結構、ダンジョンをほっつき歩いとる。気さくなタイプじゃからな」


 ダンジョン主。

 白髪の仙人のような爺さんが現れてくるのか?



「では、実地訓練をするのじゃ」


「実地訓練?」


「魔物を狩ってみるのじゃ」


「は?いや、ちょっと待て。まだ早すぎんだろ」


「何をゆーておる。もう木とかを攻撃するのはええじゃろ。なに、心配するな。このあたりなら、強い魔物はせいぜいブラックハウンドかヘルハウンドぐらいじゃ」


「せいぜい?何いってるんだ?ブラックハウンドってさっきお前が相手した魔物だろ?あんなでかくて凶暴そうな魔物、しかも群れで襲ってきたら俺はイチコロだぞ」


「何を情けないことを。お主、あの太い木を細切れにしておったろ?あのな、森の木はそう簡単に刃物で傷つけることはできん。ものすごく頑丈なんじゃ。お主はその森の木をいとも簡単に細切れにした。ブラックハウンドの胴体など、お主の包丁にかかれば豆腐みたいなもんじゃぞ」


「豆腐、知ってるのか」


「人間の里で食べたことがあるの、湯豆腐。あれは美味い」


「ほお。醤油があるということか?」


「醤油?初めて聞く名前じゃの。トマト味の料理じゃったが」


「ああ、洋風仕立ての湯豆腐か。それはそれで美味いが」


「おっ、早速魔物がそばにリポップしたぞ」


「リポップって?」


「魔物が死ぬと一定時間をおいて再び森に出現する。それをリポップというのじゃ」


「生き返るってことか」


「まあ、そうじゃの。とにかく、魔物を呼び寄せるぞ?1体しかおらんから、丁度ええじゃろ」


「うーむ、まあやってみるか」


「刺激が強いようなら、包丁に火を纏わせておくのじゃ。獲物を燃やし尽くすのじゃ」


「森は大丈夫か?」


「森への延焼という意味か?妾がフォローしてやるから、心配しなくて大丈夫なのじゃ」



 フレイヤと話していると、緑色した魔物がやってきた。猿のような肢体で顔は非常に醜い。とんがった耳。ハゲ。腰布。錆びた剣。


「アホのゴブリンじゃ」


「そんなに頭が悪いのか」


「弱いクセに見境なく攻撃してきよる。こちらの力を見せつけると逃げていくのじゃが、すぐにそれを忘れてしまうのじゃ。で、再び妾たちを攻撃してきよるのじゃ」


「ああ、確かにそれはアホっぽい」


「でもの、ほっとくとどんどん増殖していくのじゃ。さっきも言ったが、スタンピードを起こすからな、たちが悪いのじゃ」


「スタンピードって?」


「魔物密度が上がりすぎると、何故か低位魔物が凶暴化するのじゃ。それをスタンピードとよんでおる」


「ほお」


「身体能力も5割増しぐらいになるし、普段以上に攻撃的になっての、数も多いもんだから排除するのが本当に面倒なのじゃ」


「お、ゴブリン、俺達を認識したみたいだぞ。こっちに向かってくる」


「軽く相手してやれなのじゃ」


「よし」


 ちょっとドキドキするな。

 これ、俺の初実戦じゃんね。

 剣に火魔法をまとわせて……


「みじん切り!」『ズバババ!』


 おお、粉々になったと思ったら燃え上がって霧散してしまったぞ。


「うむうむ、見事なのじゃ。その調子でどんどんいくのじゃ」 


 こりゃ、楽だな。

 俺は次々と来襲する魔物をことごとく討伐していった。


 最終的には、風魔法と火魔法をまとわせた包丁でもって『乱切り』による範囲攻撃により、ブラックハウンド10頭の群れも一瞬にして森の栄養分としてやった。



「俺って、すごすぎない?」


「大調理人じゃからの。それにしても、なんじゃその格好は」


「いや、あまりにも俺って決まりすぎてる気がして。フィニッシュポーズを研究してるんだ」


「ああ、こいつ、ゴブリンなみのアホじゃ」


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