第5話 俺は剣聖真っ青の包丁使いだった1 千切り!

「狩りに行きたい?いや、その前にお主の力をあげるのが先じゃの」


「え?フレイヤが狩ってくれないのか?」


「そんな甘い考えでは森ではやっていけんぞ?まあ、心配することはない。とりあえずじゃ。ゴブリンとかで試してみるのじゃ」


 ゴブリン。うーむ。ファンタジーにあまり興味はないが、それでも知ってるある意味ファンタジーの代表的な魔物。


「武器はどうすんだよ」


「包丁があるじゃろ」


「は?包丁を武器にするってか?バカ言えよ。そんな不潔そうなことに大切な包丁を使えるかっての」


「問題ないのじゃ。包丁は触媒みたいなものなのじゃ。お主、先程魚の解体をしたじゃろ?」


「おお」


「あのとき、包丁で魚に触ったか?」


「あ、そういえば」


 俺は【解体】って言って、包丁を振っただけだ。

 確かに、包丁では魚に触っていない。


「お主の包丁スキルは、そういうもんじゃ。一種の魔法じゃからの」


「魔法なのか」


「そうじゃ。まず、周囲の木を切ってみるのじゃ。少し離れたところから、お主の普段の包丁技を唱えるのじゃ」


 普段の包丁技?

 千切りとかみじん切りとかのことか?


 俺は3mほど離れた場所から包丁をふった。

 対象は太さ30cmほどあるそこそこ大木だ。


「【千切り】!」『ドバババ』


 おお、木が本当に千切りになった。

 しかも3mも離れているのに。


「うむうむ、まあまあじゃの。じゃあ、有効射程を測ってみよ」


 結局、5mぐらいなら威力に問題はなかった。

 10mぐらいだと、威力はかなり下がった。


「慣れてきたら、距離は伸びるのじゃ。精進するのじゃ」


 なんだか、偉そうだ。



「包丁技は【千切り】の他はないのかの?」


「もっとあるに決まってるだろ」


 輪切り、半月切り、いちょう切り、みじん切り、

 乱切り、ぶつ切り、ザク切り……


 このうち、乱切り、ぶつ切り、ザク切りは範囲攻撃になった。半径数メートル内にある対象を攻撃できるのだ。無差別攻撃ではない。対象と認識したものを攻撃する優れ技だ。



「それではの、先程使った【解体】じゃ。あれを使うには、肉体の構造にある程度精通しておらんとできんのじゃ」


 そういえば、【解体】と唱えたら、一瞬だが、魚の内部構造を透視した。直後に魚が柵状態になっていたが。


「魚はお主がさばき慣れておるのじゃろ?じゃから、スムーズに解体できたのじゃ。これが未知の獣とかになると難しいのじゃ」


 なるほど。【解体】するには、地道に解体して、

 体の構造を調べる必要があると。


「あとの、【解体】には血抜きと魔素抜きはデフォの機能じゃ」


「魔素抜きもか?」


「森の魔物にはたっぷりと魔素が含まれておる。魔素を含む生物が死んでしばらくすると、森に吸収されるのじゃ」


「森にか。体全部がか」


「そうじゃ。じゃから、魔素抜きをしないと解体しても消えてしまうのじゃ」


「なるほど。そういや、さっき言ってたな。魔素抜きは難しい技だって」


「そうじゃ。他にもオプション指定があるのじゃ。不要な部分があるじゃろ?それをあらかじめ指定するのじゃ」


「体毛とか内臓の消化物とかをか」


「そうじゃの。じゃが、例えば体毛も必要なときがあるからの。糸を作ったり毛皮のコートを作ったりするじゃろ?骨でもスープをとったりする」


「ふむふむ。骨付きカルビとかいうもんな。ところで、死体はしばらくは森に残ってるわけだろ?すぐに消滅させたいときは?」


「死体はグロイからの。そのときは包丁に魔法をまとわせるといいのじゃ」


「魔法をまとう?」


「大調理人は調理に必要なら大抵の技が発現する。魔法だと4属性魔法とかバイオ魔法などじゃな。それを包丁にまとわせるのじゃ。難しくはない。念ずるだけじゃ」


「魔法って、さっきフレイヤがやった凄い魔法も可能なんか?」


「ああ。ちょっと修行が必要じゃがの。お主ならすぐだと思うぞ」


 おお、厨2がうずくぞ!


 そういや、最初にファイアを唱えたよな。あの時も興奮したが、冷静に考えるとチャッカマンのようなしょぼい魔法だからインパクトが薄かったんだ。だって、その後に強烈なことが続いたからな。


 でも、フレイヤのような魔法が使えると聞いて興奮しないほうがおかしい。俺は35歳だが、年齢は関係ない。俺がよぼよぼのジジイだったとしても興奮する自信があるぞ。



「とりあえずじゃ。包丁に【火】をまとわせてみよ。念ずるだけでいけるはずなのじゃ」


 俺は包丁に火をまとわせるイメージを浮かべた。

 

『ボッ』


「おおお!包丁が燃えてるぞ!」


「それで対象を攻撃するんじゃが、森ではちょっとまずいの。もう少し制御できるようになったら火魔法を使うのじゃ。森が燃えてしまうからの」


「確かに。じゃあ、バイオ魔法か」


 俺はコンポストを想像した。包丁に薄く青みがかった光がまといついた。これで木を攻撃するとサラサラと粉になって風に吹かれ霧散した。


「あと、習熟すれば乾燥魔法といっての、水・風魔法の複合魔法で対象を乾燥させて、火魔法で燃やし尽くすと効率が良くなるのじゃ」


「ふむふむ」


「もちろん、魔法単独でも使用可能じゃ」


「さっきフレイヤの使った魔法はどの位難しいんだ?」


「うむ。初級魔法ではないの。上級魔法じゃから、普通は簡単には使いこなせんのじゃが、お主は『大調理人』で『究極調理』のスキル持ちじゃ。この世界でもトップクラスのチート職業・スキルなのじゃ」 


 フレイヤは俺の獲得した職業・スキルを称賛する。当初は人ごとのように聞いていたが、その一端だけでも凄さを感じ始めていた。


 突然の異世界転移で思いっきり凹んでた俺。ちょっとやる気が出てきた。包丁技もすごかったし、魔法使いとしてもかなり上位の力が使えそうだ。




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