第4話 猫軍団の最初のご飯はほうれん草と卵とベーコンのふんわり炒め

「あのよ、店をここでオープンするとしよう。客はどうなるんだ?」


「魔物に決まっておろう」


「え?魔物?」


「そうじゃ」


「ちょっと待て。じゃあさ、食材はどっから調達するんだ」


「肉か?もちろん、魔物じゃ」


「魔物を狩って、その肉を魔物に提供するってか?」


「お主は大きな勘違いをしておる。この森にはの、客にふさわしい魔物と、肉にふさわしい魔物がおるのじゃ」


「は?」


「前述したじゃろ。客にふさわしい魔物はの、わらわのような言葉をしゃべる魔物じゃ。知性があるということじゃ。妾たちは高位魔物と呼んでおる」


「あー、フレイヤを食いたくないもんな」


「あほなこと言うな。当たり前じゃ。それでじゃ。肉にふさわしい魔物は見ればわかる。頭が悪い」


「頭が悪い」


「うむ。お主を見たらすぐに攻撃してくるような魔物じゃ。脳筋系低能魔物じゃの」


「ああ、高位とか低能とか差別するんだ」


「何をゆーておる。差別どころじゃないぞ。低能魔物は駆除の対象、食い物の対象じゃ」


「本当に食べるのか?」


「むろん、脳筋魔物でも不味いのはいかん。さっきのブラックハウンドとかな。奴らはの、ほっておくとどんどん増えるのじゃ。増えすぎると暴走したりする。スタンピードとかゆーての。それは妾たちにも困りものなのじゃ」


「それで駆除するってわけか」


「そうじゃ」



「じゃあ、改めて確認したいんだが、魔物に出す料理は肉か?」


「メインはそうなるの。鉄板メニューじゃ」


「俺、結構いろんな料理作れるんだが」


「人間の食べるものはなんでもいけると思うぞ?知らんけど」


「知らんけどって」


「真面目な話するとじゃな、人間の食べる料理のうち、不味いのは駄目じゃ」


「そんなの、当たり前だろ」


「あのな、魔物は複雑なもんは食べ慣れとらん。でもな、妾たちは新鮮なものばかり食べる。動物でも植物でも。動物じゃと、早く食べないと森に吸収されてしまう。植物はそもそも生えておるのを直接食べる」


「なるほど。賞味期限にはうるさいってわけか」


「人間どもはの、あんまり新鮮なものを食べんのじゃ。肉だと干し肉とか塩漬け肉とか。半分腐ったものを食べよる。パンでも焼いてから数日たったもんとか。そういうのは駄目じゃの」


「ああ、わかるわ。ということは、この世界の人間たちはかなり貧相な食生活を送っているということか」


「そうじゃの。素材の新鮮さという意味ではの。ただ、妾たちはほとんど料理をせんのじゃ。せいぜい焼くだけ、煮るだけ、じゃの。そういう意味では人間たちのほうが料理は発達しておるのじゃ」


「ふーむ。とにかく、肉か」


「そうじゃ」


「ニャーニャーミーミー」


「ふむふむ、そうか。腹が減ったか。では、魔猫も増えたところで昼飯の時間じゃ」


「こいつらの分もか」


「当たり前じゃろ」


「ニャーニャー!ミーミー!」


 飯の言葉に反応して猫が騒ぎ始めている。

 こいつらも俺の言葉がわかるみたいだ。


「うむ。こいつらはしゃべりはできんが、お主の言うことは飯関係はほぼ100%理解するぞ」


「飯だけか」


「まあ、怒っとるとか嬉しいとかはわかるかもな」


「そんなの言葉関係ないだろ」


「そんなことはいいのじゃ。早くご飯を作るのじゃ」


「ニャーニャーミーミー」


「うるさい、ちょっと黙っておれ。ああ、痛い!俺に昇ってくるな。じゃあ、今日はこれにすっか」


『ほうれん草と卵とベーコンのふんわり炒め』


 バターじょうゆの香りがいいぞ。

 俺の大好きな簡単メニューだ。


『鮭と小松菜の混ぜご飯』


 塩鮭はゆでてふっくらやわらか。鮭の香りで飯が進むぞ。小松菜は広場に生えていた野草。姿も味も小松菜とそっくりなので、小松菜と命名した。事前に魔素を抜いて使用する。


 魔素については、フレイヤの助言があったのだ。俺のようなダンジョン初心者は魔素分を摂取しすぎるとオーバーフローを起こす。だから、魔素は極力抜くこと。魔素抜きは俺のスキルで簡単に行える。



「魔素を抜くのは普通は簡単ではないのじゃ」


「高位魔物とやらでもか」


「うむ。というか、高位魔物は逆に魔素を気にせん。腐り始めた肉は臭いしの。植物も新鮮さを失うと急に味が落ちていく。だから、すぐに肉にかぶりつくのじゃ」


「ああ、それはわかる。肉にしても野菜にしても保存が悪いと質が駄目になるからな」


「それにダンジョンの中では腐る速度が速いからの」


「なるほど。注意しなくちゃいかんな。あ、そういえば、フレイヤ。普通に人間の食い物食べてるが、問題ないのか?」


「言ってる意味がわからん」


「あっちの世界の猫は塩分とか気を付けなきゃいけない食べ物がたくさんあるんだが」


「妾たちは魔物じゃぞ。異世界の動物と同じにするでない。好き嫌いはあるが、食べれんものはないのじゃ」


 ま、そりゃそうだな。


 ◇


 食材の準備のため、冷蔵庫をあける。

 大型サイズの冷蔵庫の庫内灯がつく。


「なあ、フレイヤ。ここの電気とかガスとか、どうなってるんだ?」


「む?」


「ほれ、室内でも灯りがついてるだろ?」


「普通に魔導具だと思ったが」


「魔導具?」


「うむ。魔石をエネルギーとして魔法により稼働する道具じゃ。どこかに魔石がはめられておるはずじゃぞ」


 魔石か……

 俺は室内を見渡すと、壁に見慣れない小さいな扉がある。開けてみると、


「ああ、これが魔石か?」


 いくつものキラキラと緑色に光る小さな石が。

 横には担当している魔導具の名前がかいてある。


「そうじゃ。容量が少なくなるにつれて色が薄くなり、最後は透明になるのじゃ。そうなれば交換じゃの」


 どうやら、この扉の魔石で建物の魔導具を一括管理しているようだ。


「魔石なんて、どこで用意するんだ?」


「魔物を狩って入手するのじゃ。魔石は魔物の核での、全ての魔物が持っておる。さきほどのブラックハウンドの燃えたあとを見に行けば魔石が落ちておると思うぞ」


「おまえは魔石をいらんのか」


「妾はたくさん持っておる。ブラックハウンドのような小物の魔石はいらんのじゃ」


「はは、小物か。じゃあ、俺がもらうぞ?」


「早めにするのじゃ。1時間もすると森に吸収されてしまうじゃ」


「それ、早く言えって」


 俺は慌てて外に出て、広場を見渡した。


「ああ、あれか」


 地面にキラキラ光るものが見えた。直径2cm程度の綺麗な緑色の石だ。俺は全ての魔石を回収して店に戻った。


「この魔石、どうすりゃいいんだ?」


「地面におかなければええのじゃ。箱かなにかに入れておくのじゃ」


 言われた通りに不要な段ボール箱を魔石保管庫とした。



「じゃあ、料理にとりかかるぞ」


 俺と猫11頭分の分量を用意すると、

 冷蔵庫に隙間が目立つようになった。


 食材貯蔵倉庫も転移してくれていれば、数週間分はなんとかなったんだが。冷凍庫もあったし、ドリンク類もかなりのストックがあったんだ。


 これで晩ごはんを用意して、明日の分も用意し、食べるものはあと2・3日分ってところか。こりゃすぐにでも狩りにいかないと。


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