第3話 俺は魔人でこの森はダンジョンなんだと

「ああ、この店な、少し守りを固めたほうがいいと思うのじゃ」


「守り?」


「そうじゃ。ちょっと仲間を呼んでくるでの、待っておれ」


 そして、約半時間後。


「ニャーニャー、ミャーミャー、ミーミー」 


 きたきた。

 10匹ほどの猫が。

 大きいのから子猫まで。


「付近におった魔猫を呼んできたぞ」


「魔猫?」


「うん?そうじゃ。魔猫じゃ。わらわらも魔物じゃからの」


「魔物?」


「というかの、お主も魔物の仲間みたいなもんじゃぞ」


「へ?」


「ここをどこだと思うておる。森のど真ん中じゃ。そこで平気でいられるということは普通の人間ではないのじゃ」


「人間じゃない?」


「そうじゃの。【魔人】というところかの」


「魔人?」


「この森には魔素が濃く漂っておる。普通の人間とか動物は棲息できんのじゃ。ここらあたりじゃと、10分もすればあの世行きじゃの」


「は?魔素?」


「魔素はの、魔物のもとになるものじゃ。平気な顔をしているというのは、お主の体に魔素が馴染んでおるからじゃ」


 なんと、俺は人間やめてるのか?

 

「この猫らをな、店の防御に使うのじゃ。こいつらは集団になると強い結界魔法を張れるのじゃ」


「結界魔法?」


「そうじゃ。物理・魔法攻撃をされてもガードする魔法じゃな。かなりの高等魔法じゃぞ」


 こいつの話はいちいち聞き慣れん単語が出てくる。

 そのたびにオーム返しの質問をするしかない。



「そういや、お前、名前あるんか?ちなみに、俺は森野弾児だ。ダンジって呼んでくれ」


わらわか?わらわは存在自体が名前じゃぞ」


「何をワケのわからんことを……シロでどうだ」


「なんだか、おざなりじゃのう」


「じゃあ、タマか」


「うーむ、気のせいかその名前は今ひとつの気がするのじゃ」


「じゃあ、どうすりゃいいんだ?」


「仕方がない。お主は存在で呼び合うことに慣れておらんようじゃ。以前に呼ばれておった名前がいくつかある。フレイヤでどうじゃ?」


「フレイヤ?ま、いいか。じゃあ、フレイヤ。おまえ、しゃべれるんだな」


「ああ、そこか。よく説明してやろう。しっかり聞くのじゃぞ」


 フレイヤが偉そうに解説するには、この森では魔物共通語がある。一定の知性のあるものがこの言葉を話す。話さない魔物と話す魔物はお互いに敵対している。


「魔物共通語を理解して話しているということはお主が魔物・魔人である証拠じゃの」


「俺は人間じゃなくなったということか?」


「強化された人間ということじゃ」


「うう、そうなのか。喜んでいいのか。でも、魔物同士でも敵対していると。さっきブラックハウンドに襲われたよな」


「そうじゃ。敵対というかの。お互いに食事対象じゃの。まあ、低能の奴らは相手が誰であろうとつっかかってくるがの」


「俺、あやうく朝ごはんにされるところだった」


「ブラックハウンドは食べても筋ばかりで美味しくない。後々、美味の魔物の狩り場を教えてやる」


「おお、そりゃ嬉しいな。ところで、ここは森なんだな?」


「森であることは間違いない。じゃが、同時にダンジョンでもある」


 このダンジョンは平面多重構造。地上から入る入り口は一つ。ダンジョンに入ると延々と森が続く。1層の最奥には第2層につながる出入り口がある。そこを越えて第2層に至る。


 こうして次々と層が重なっていく。時々、出入り口を守る守護魔物がいる。で、ここは第10層。最深層は不明。



「森の外はどうなっている?」


「お主の考える普通の世界が広がっておるの」


「人間もいるのか」


「うむ。この世界ではやっかいものじゃがの」


「やっかいものなのか」


「力は弱いんじゃが、群れることを知っておる。傲慢で欲深いから地上で大きな顔をして威張っておる」



「このダンジョンにはこないのか」


「このダンジョンは他のより強力らしい。だいたい人間どもは第3層あたりで撤退したり全滅したりしておる」


「は?いくらなんでも」


「奴らはたいてい魔法を使えんからの。強い弱い以前に濃い魔素にやられるんじゃ」


「ああ、なるほど」


「たまに、このあたりまでくる人間もおるぞ」


「そうなのか!」


「この森の仁義をわきまえておるから、わらわらとは敵対せん。奴らも魔物言葉を話すし、言葉を話さん低能魔物を狩っていくわ」


「人間でも魔物言葉を話すのか」


「知性があって魔素に体が馴染むと、自然と魔物言葉が使えるようになる。スキルというやつじゃな」


「つまり、魔人化したということか」


「そうじゃ」


「うーむ。人間やめたってこと?」


「何度もいわすなな。やめておらん。強化されたってことじゃ」


 そうだといいんだけど。

 

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