14

 家へ帰ると、玄関に見慣れた靴が一足置かれていた。諒ちゃんの靴だ。

 珍しいな、と思った。私が諒ちゃんの家に行くのはしょっちゅうだけれど、その逆はめったになかったから。

 「……諒ちゃん?」

 まさか、私の性生活について、お母さんに進言しに来たわけではないだろうけど、いぶかしがるような声が自然に出た。

 「お帰り、真希。」

 リビングのソファにお母さんが座っていて、その向かいの椅子に、諒ちゃんが座っていた。二人はなにか話していたようだったけれど、私の姿を認めると口をつぐんだ。

 「いらっしゃい、諒ちゃん。」

 「おう。」

 なにしに来たのー、と、普段なら何気なく聞けたはずだった。でも、私の脚の間はまだじんじんと痛くて、ついさっきまでしていた行為を私に思い出させる。行為自体が問題というよりは、諒ちゃんに嘘をついてしまったという事実が、私の胸を苦しくしていた。そうすると、自然と口も重くなる。私は普段通りの顔を装って、そのまま階段を上って二階の自分の部屋へ引っ込もうとした。すると、諒ちゃんがおもむろにソファから立ち上がった。

 「部屋、行ってもいいか?」

 「……いいよ。」

 声がぎこちなくならないように、細心の注意を払った。部屋に行ってもいいかなんて、訊かれるのははじめてだった。諒ちゃんはたまにうちにやってくると、当たり前みたいに私の部屋で時間を過ごすから。

 ばれてるな、と思った。私のついた嘘は、諒ちゃんにすっかり見抜かれている。

 どうしよう。

 諒ちゃんの先に立って階段をのぼりながら、私は頭をフル回転させて、諒ちゃんを誤魔化す方法を考えていた。でも、そんなのはただ、嘘に嘘を重ねるだけで、さらに気まずくなってしまうことだって分かっている。だけど、諒ちゃんには、酒匂くんとのことは知られたくなかった。怒られるから、とか、そんなんじゃない。そんなんじゃなくて、気が付いてしまった私の中の恋情が、諒ちゃんに少しでもきれいな私を見せたくて躍起になっている。

 階段を上り終え、私の部屋に入る。諒ちゃんは、いつもみたいに私のベッドに腰を掛けた。私は、小学生の時から使っている勉強机の椅子をくるりと回して、諒ちゃんと向き合う形で座った。

 ふう、と、諒ちゃんが短くて深い息をついた。

 「姉貴には、なにも言ってないよ。」

 「……うん。」

 なにも言ってない、ということは、私の身に、なにか親の耳に入れないといけないようなことがおこったことを、諒ちゃんは確信しているのだ。身が縮む思いがした。

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