15
諒ちゃんは、少しの沈黙の後、言おうと思ってきたんだけど、言えなかった、と投げ出した。
私はなにも言えなくて、じっと身を固くしたままうなだれていた。
「お前を止めるつもりなら、昨日の内に来るべきだった。でも、なんでだろうな。来られなかったよ。」
諒ちゃんはそう続け、またため息をついた。
「ちょっとな、信じてたんだよ。真希は俺に嘘つかないって。」
「……ごめん。」
なんとか絞り出した謝罪の言葉。諒ちゃんは、右の頬を歪めるみたいに、ぎこちなく笑った。暗い、笑みだった。私はその表情を見て、諒ちゃんに嘘をついたことを本気で後悔した。だって、諒ちゃんは、こんなふうに笑う人じゃない。いつももっと、にやにやと、ちょっと悪巧みしてるみたいに、でも、心底楽しそうに笑うひとなのだ。
「ごめん。ごめんね、諒ちゃん。」
私は椅子から立ち上がり、諒ちゃんの前に膝をついた。そのまま諒ちゃんの膝にしがみついて泣きだしたかったけれど、寸でのところで理性が私を押しとどめた。今、諒ちゃんに触れてはいけないと。
脚の間が、じんじん痛む。私のバカな行動を、見せつけるみたいに。私は、諒ちゃんの姪っ子は、こんな痛みなんか、背負ってはいけなかった。
諒ちゃんは、しばらく黙りこんでいた。そして、もう二度とするなよ、と言った。
「見ず知らずの男となんか、もう寝たらだめだ。危なすぎるんだよ。分かるか?」
「うん。」
「本当に、分かってるか?」
「うん。」
私はそっと、諒ちゃんの膝に手を置いた。それくらいなら、許されたのではないかと思って。
「もう、セックスなんかしない。絶対。」
私がそう言うと、諒ちゃんはちょっと焦ったみたいな顔をした。
「あ、そうじゃない。」
「え?」
私が首を傾げると、諒ちゃんははっきりと首を左右に振った。
「そうじゃないよ。俺は、セックスするななんて言ってない。ちゃんと身元が分かってる、真希が本当に好きな相手とだけしろって、そう言ってる。」
そうだね、と、私は頷いた。諒ちゃんの言うことは、理解していた。理解した上で、私はセックスなんかしないと言っている。
「でも、諒ちゃんは私としてくれないでしょ? だから、私はもう、誰ともしないよ。」
本心から出た言葉だった。諒ちゃんとできないなら、私はもう、誰ともしない。私は諒ちゃん以外の人を好きには、多分ならない。
見上げた諒ちゃんの顔には、なんの表情も浮かんでいなかった。いろんな感情がぶつかり合って相殺されて、表情になるまで浮かび上がっては来なかったという感じ。しばらく私と諒ちゃんは、同じような表情で目と目を見つめ合っていた。
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