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全然分からない私は、翌日、咲ちゃんが紹介してくれた男の子とキスとセックスをした。形だけでも、それがなんなのかだけでも、分からないことには自分が諒ちゃんに向けている感情に名前が付かない気がして。
咲ちゃんが紹介してくれた男の子は、酒匂くんという他校の一つ先輩だった。私はそれ以上に、そのひとの情報を知らない。そのひとはなにも言わなかったし、私もなにも訊かなかった。そういう情報は、不要どころか邪魔になる気がした。感情がない、ただのセックスの。
指定されたホテルの天井を眺めて横たわりながら、諒ちゃんもいつも、こんなことをしていたのかな、と思った。大して感情があるとも思えない、一回きりの女のひとたちと。
酒匂くんは、多分悪いひとではなかった。少し伸びすぎた髪から漂う、不摂生な感じが、諒ちゃんになんとなく似ていた。その酒匂くんが、慣れた手つきで私を引き寄せてキスをしてきたとき、内心でほっとした。このひとは、こういう関係に慣れていて、こういう行為にも慣れていて、私はただ任せておけばいいだけなのだと。
キスもセックスも、情報としてはなにをするかくらい知っていたし、酒匂くんはそこから逸脱したりはしなかった。私は本当に、服を脱いで寝ていればよかったのだ。
30分で、全部が終わった。私は、痛かったな、と思った。ひきつれるみたいに脚の間が痛かった。でも、それだけだ。キスもセックスも、別段驚くほど独創的なことではないし、してしまったらなにかが大きく変わるとか、そんなこともない。
諒ちゃんは、これが好きなんだろうか。次々に女のひとを家に入れるくらいに。
全然、分からなかった。諒ちゃんを、こんなふうにさっぱり分からないと思うのが、これまでの人生ではじめてのことだった。
酒匂くんが、シャワーを浴びて、服を着て、部屋を出ていくまで、私はずっと、ベッドの上にひっくり返って天井を眺めていた。酒匂くんは、私のことを、変な女だと思ったかもしれない。でも、それは別にどうでもよかった。どう思われようが、もう二度と会うこともないひとだ。
しばらくそのまま、白い天井をじっと睨みつけていると、枕元でスマホが鳴った。咲ちゃんからの電話だった。
『もしもし? 真希? 酒匂先輩、もう帰ったんでしょ?』
「……うん。」
『先輩、また真希としたいみたいだよ。どうする?』
「……やめとこっかな。」
『なんで? 先輩、下手だった?』
「そういうわけじゃ、ないけど。」
『ないけど?』
「私、セックスってもう、しないかも。」
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