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私は一瞬、諒ちゃんにそのことを教えてあげようかと思った。でも、すぐに思い直した。だって、教えたところで諒ちゃんのなにが変わるわけでも、女と長続きするようになるわけでもないのは、明白だったから。
だから私はソファの上で猫みたいに丸くなったまま、諒ちゃんのことをじっと観察してみた。
私のお母さんと同じ、色素の薄い目と髪。肌の色も、どちらかと言えば薄い。髪が無造作に伸びすぎているけれど、それさえ整えれば、さほど無責任な男にも見えない。
「諒ちゃん、髪切りなよ。」
「え、なに、急に。それで俺、女と長続きするようになるの?」
「まあ、それの第一歩だね。」
「まじか。」
うん、まじ、と私は深く頷いて見せた。外見から入るっていうのも、さほど悪い手ではないと思った。諒ちゃんがもう少し誠実そうな見た目になれば、誠実で長続きできるような女の人が寄ってくるようになるかもしれない。
まじか、ともう一度呟いた諒ちゃんは、しばらくスマホをいじっていたかと思うと、すっくと立ち上がった。
「髪、切ってくる。」
「え?」
「床屋、予約とれたから。」
「今から?」
「うん。」
私は少し驚いたけれど、なにも言わずに諒ちゃんを見送った。諒ちゃんが、そこまで女と長続きしたいと思っていたことは意外だった。女なんてどうでもいい、みたいな目をしているくせに。
「じゃあ。帰るなら鍵あけっぱでいいから。」
「うん。」
部屋を出ていく諒ちゃんの後姿。それを眺める私は内心では少し、嬉しくもあった。だって諒ちゃんは、私の一言にあっさり従うくらい、私を信用しているっていうことになる。
私は諒ちゃんが帰ってくるまで、諒ちゃんの部屋で好き勝手過ごした。買い置きされている炭酸水を飲みながら、爆音で音楽をかけ、歌って踊ってみたり、それに飽きたら寝っころがってテレビを見たり。
諒ちゃんは、一時間で帰ってきた。すっきりと短く、髪を切って。それは、私が見たことがある諒ちゃんの中で、一番まともそうな、真面目なサラリーマンみたいな髪型だった。
「え、随分切ったのね。」
「真希が言ったんだろ。」
「そうだけど……。」
「なに、嘘だったの?」
「そんなこと、ない。」
「だったら、いいだろ?」
諒ちゃんは、煙草を咥えながらにやりと笑った。私はなんだか、その笑顔を見ていられなかった。さっきまでの、少し嬉しかった気持ちは、胸の中でしゅんとしぼんでしまった。
「……諒ちゃん。」
「なに?」
「また、髪の毛伸ばして。」
別人みたいに誠実そうな顔になった諒ちゃんは、急に言を翻した私に対して、理由も訊かずに、いいよ、と笑った。
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