私が、三親等とは結婚できないと知った日、その後、諒ちゃんに送られて家に帰り、お父さんとお母さんと食卓を囲んだとき、私はその話をしなかった。いつもなら、その日あったことはなにもかも、と言っていいくらい話していたのに。諒ちゃんも、私の知っている限り、誰にもその日の話はしていない。その日のことは、なかったみたいにして私たちは暮らした。

 私は時々、諒ちゃんの恋人に会ったりもした。別に、会おうとして会ったのではなくて、諒ちゃんの家に遊びに行ったら、たまたま鉢合せをしてしまっただけだけれど。

 今になると、あの日からだな、と思う。諒ちゃんが私を恋人と遭遇させるようになったのは、私が三親等とは結婚できないと知ったその日から。それまでは多分、諒ちゃんは、私と恋人を会わせたりしないように、細心の注意を払っていたのだろう。その注意を、諒ちゃんはしなくなった。

 私は特に、諒ちゃんの恋人のことを気にしたりはしなかった。諒ちゃんはいい大人だし、恋人がいるくらい当たり前だと思っていた。そしてなにより、どの人とも本気じゃないことも分かっていた。だって、私は諒ちゃんの家で二度以上同じひとに会ったことがない。どんなにきれいなひとも、どんなにかわいいひとも、どんなにやさしそうなひとも、一度きりだった。

 「なんで諒ちゃんは、女と長続きしないの?」

 私が中学二年生に上がってすぐの春の日だった。私は制服のまま諒ちゃんの部屋のソファに蹲っていて、諒ちゃんは私の向かいの床に胡坐をかいて煙草を吸っていた。諒ちゃんが煙草を吸うことは、私と諒ちゃんだけの秘密だった。

 「女、とかそういう言い方はやめなさい。」

 諒ちゃんははじめ、そんなふうにいい大人ぶって私に注意をたれてきた。でも、私がねえ、なんで? と問いを重ねると、いつものへらへらした諒ちゃんに戻って、俺が訊きたいよ、とぼやいた。

 「俺ももういい年だし、長続きしたいのは確かなんだけどね。」

 「したいんだ、長続き。」

 「うん。したいしたい。」

 私はまず、諒ちゃんは嘘をついている、と思った。そしてすぐに、嘘ではない、諒ちゃんの中では本当なんだ、と気が付いた。

 諒ちゃんは、自分が誰よりも淡白な目をして恋人を見ていることを、知らない。うんと静かで、なんの感情もない、強いて言えば、ちょっとだけ鬱陶しそうな目。そんな目で、諒ちゃんは恋人を見る。だから私は、諒ちゃんはそもそも恋人と長続きしたり、さらに言えば結婚したいだなんて、そもそも考えていないのだろうと思っていた。でも、諒ちゃん自身は、自分がそんな目をしていることに、気が付いてさえいないのだ。

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