「やっと見つけた。」

 あと10分探して見つからなかったら、警察行こうと思ってたんだぞ。

 そう言いながら、諒ちゃんが土手に下りてきたのは、もう空が夕焼けに染まった頃だった。私はとっくに泣き出していて、泣きやみもすんでいて、両頬が涙の名残でじゃりじゃりしていた。

 来てくれた。

 私はそのとき、心底嬉しかったのだ。諒ちゃんが、私をちゃんと探し出してくれたことが。それでも意地を張って、ふい、と、顔をそむけた。諒ちゃんのことなんて、見たくない、と言うみたいに。

 「真希、ごめん。」

 諒ちゃんは、私の視線の先にゆっくりと歩いて入り込んできながら、軽く腰をかがめて私の顔を覗いた。

 「笑ってごめん。」

 諒ちゃんの声は、真面目だった。普段の軽い感じの喋りかたとは違って、大人のひとと話しているときみたいな低いトーンだった。私はなんだかほっとして、また泣き出しそうになった。諒ちゃんは、私の言うことを笑い飛ばしてしまうような、そんなひとではないと。

 「……うん。」

 鼻をすすりながら、私はそっけなく頷いた。それ以上の言葉は、上手く見つけられなかった。

 「ごめんな。真希のこと、傷付けるつもりはなかったんだ。」

 「……うん。」

 「ごめん。」

 四回目の、ごめん。諒ちゃんは、深く頭を下げた。

 私はびっくりして、え、と、声を出してしまった。だって、大人のひとにそんなふうに頭を下げられたことなんか、これまでもちろんなかったから。

 「諒ちゃん!?」

 「うん。」

 「そんな、謝らなくて、いいのに。」 

 上手く、言葉が出なかった。とにかく、諒ちゃんに、頭を上げていつものふらふらした感じに戻ってほしくて。

 「うん。ありがとう。」

 やっぱり低く言って、諒ちゃんは静かに頭を上げた。私は少しほっとした。それで、誤魔化すみたいに言った。

 「早く帰ろう。ご飯の時間に遅れちゃう。」

 「うん。」

 諒ちゃんは、そこではじめて笑ってくれた。その笑い方が、大人のひとに向けるちょっと硬いものではなくて、私にだけ向ける、にやにや笑いだったので、私は本当に安心して、素早く立ちあがった。

 「帰ろう。」

 「うん。」

 それで私たちは、手を繋いで家まで帰った。もう両親とは手をつなぐような歳ではなかったけれど、私は諒ちゃんとは時々手をつないで歩いた。諒ちゃんの手のつなぎ方は、私を子ども扱いするというよりも、大人扱いするみたいな、そんなつなぎ方だったから。

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