第177話 強制休暇
「お前ら、丸一日休め」
霧島のこの一言がきっかけだった。
「柊さん、醤油です」
「あれ? ありがとうございます」
橘は翔太が何も言っていないにもかかわらず、ほしいものを差し出してきた。
神代はその様子を「ぶーっ、夫婦みたい」とぶつぶつとつぶやいていた。
マンスリーマンションの一室で翔太と橘は料理をしていた。
神代は万が一にも手を怪我しないよう、橘から料理を禁止されている。
霧島の命令で神代と橘は強制的に休暇をとることになった。
霧島は翔動の業務に干渉する権限はまったくないが、押し切られる形で同じ日に休みを取った。
三名共に休日の概念がないほど、働いていたため、霧島の判断は妥当だろう。
この場にいるのは、変装して外出すると休暇にならないという神代の主張があったためだ。
神代はここに来たいと強く希望し、翔太が折れた形だ。
(自分の家でゆっくりする選択肢はなかったんだな……)
神代がわがままなお願いをすることはめったにないため、翔太は可能な限りそれに応えたいと思っていた。
(それに、あの契約があったんだよな)
映画の撮影時に交わした契約で、神代と美園には皇を一日自由にする権利があった。
所属タレントと密室にいる状態を懸念していたが、橘が同室することで問題ないと判断された。
「かんぱーい」
大の大人が昼間からビールを飲み始めた。
(雫石に見られたら、軽蔑されるに違いない)
「んまっ! ただのきんぴらにしか見えないのに!?」
神代が美味しそうに食べている様子を翔太は温かく見守っていると――
「あーっ! 私のことを自分の娘みたいに思っているでしょ!?」
「今日は柊さんに甘えてもいいわよ」
「うーっ、橘さんもお母さんみたい」
今日の神代は精神年齢が幼くなった気がしていたが、口には出さなかった。
「あーあ。毎日こうやってくつろげるなら、戦争がない世の中になるのに」
「そういえば梨花さん、歴史問題で無双してたね」
先日行われたクイズ番組では神代が見事に勝利し、映画の宣伝が存分に行われた。
Web Tech Expoの告知も行われ、石動からの情報によると、メディアチームに問い合わせが殺到しているとのことだった。
神代の様子を窺った感じでは、東郷が現れた影響はなさそうで、翔太は安堵した。
「私、歴史にはちょっとうるさいよ? 柊さんは正史派? 演義派?」
「いきなり三国志かよ!」
神代は三色豆を食べながら歴史談義を挑んできた。
今日の神代はかなりテンションが高い。
「クランクアップも近いけど、映画は順調?」
「んー……仙台のロケが残っているけど、それでほぼ終わりだよ」
映画『ユニコーン』の主人公である的場は仙台出身であり、地元の大学と連携したプロジェクトを立ち上げる重要な場面がある。
(仙台か……柊翔太の過去を調べる必要があるな)
翔太は東郷の発言で気になる点があったことを思い出した。
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