第178話 誤謬
「もぅ食べられないよぉ」
神代はベッドでベタな寝言をつぶやいていた。
マンスリーマンションは住居用であるため、ベッドが設置されている。
翔太も石動も、終電がなくなったときに、たまに利用している。
早々に電池が切れた神代を、翔太がベッドまで運んでいた。
「いいんですかね……一応、シーツは洗濯しているんですが……」
あまりに無防備な姿を晒す神代を見て、翔太は心配になった。
「ふふ、大丈夫ですよ。普段の梨花はガードが堅いのは柊さんもご存知でしょう?」
橘はまったく気にしている様子はなかった。
「この部屋は白鳥不動産が所有しているものですよね?」
「え、ええ」
「綾華ですか?」
「いゃ、直接は関係ないはずです……」
翔太はしどろもどろになりながら答えた。
(どこまでバレているんだろうか?)
「もう危ないことはしないでくださいね」
「は、はい」
二人は川奈から譲り受けていた日本酒を飲んでいた。
上気した橘の頬は、うっすらと赤みを帯び、その美しさはまさに芸術のようであった。
その表情は、誰もが息を呑むほどの妖艶な雰囲気を纏っていた。
翔太はクラクラした意識を立て直すため、彼女から目を反らした。
奇しくも密室で二人きりという状況ができてしまった。
とはいえ、橘の戦闘力は翔太を遥かに凌駕するため、世間が心配する事態にはならないだろう。
「余程疲れていたんでしょうね。石動の無茶振りもありましたし」
翔太は神代の寝顔をみながらつぶやいた。
翔太は石動から、映画に関して無茶な提案をされていた。
この提案が風間の賛同を受けて、映画に取り込まれることになった。
これによって、神代と美園には追加で負担をかける形になった。
映画の宣伝とはいえ、サイバーバトルやWeb Tech Expoなど、自分の事業領域に神代を巻き込んでいることに多少の罪悪感を感じていた。
「梨花はこれ以上ないくらい楽しんでやっていますよ?」
翔太の心中をわかっているかのように橘が返答した。
「神代さんのおかげで、翔動のビジネスは大きくなることができそうです」
「それはこちらも同じですよ」
神代との出会いをきっかけに、翔動と霧島プロダクションとの間には強固なビジネス関係が構築されつつあった。
「今でこそ、ビジネス上の利害関係ができましたが、俺は梨花さんのことを誰よりも大切な人だと思っています。
そのために、やれることは何でもやるつもりです」
翔太は改めて決意を表明した。
神代とその周りで、大きな事件が起こるような予感があった。
橘は翔太をまじまじと眺めていた。
「ありがとうございます。私にとっても梨花は大切な存在です」
「俺は橘さんのことも同じくらい大切に思っています」
「……」
橘が硬直し、何とも言えない空気ができあがってしまった。
この状況を打開しようと――
「あれ? 私、なんで寝ているの!?」
神代はがばっと体を起こした。
「おはよ」
「柊さん……はっ!」
神代はだんだんと状況を把握したようだ。
「私……どうやってここに……?」
「柊さんがお姫様抱っこして運んでくれたわよ。よかったわね」
「ええええええええええっ!」
神代の顔は真っ赤に染め上がってた。
「こここここ、このベッドは普段柊さんが使ってるの?」
「俺と石動がたまに使うくらいで、洗濯はちゃんと――」
「クンクンクン」
「ちょっと! 何で匂い嗅いでいるの!?」
***
「ふー、しっかり休めた」
神代はフル充電が完了したEVのようにキビキビとしている。
「でもよかったの? 契約の権利をここで行使してしまって」
結果的に、翔太は部屋で一日だらだら過ごしていただけであった。
「何言っているの? 柊さん?」
「へ?」
「契約で私たちが一日拘束できるのは、皇さんだよ」
「ああああっ!」
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