第175話 支配者
「君はどこの事務所に所属しているのかね?」
東郷は翔太に興味を示したのか、睨めつけるような視線で尋ねた。
東郷は数多のアイドルを輩出している芸能事務所『フォーチュンアーツ』の社長だ。
芸能界や報道機関に絶大な影響力を持ち、彼に逆らえる者は一人もいないと言われている。
東郷を前にした翔太は身の毛がよだつような恐怖と、同時に殺意を覚えるほどの嫌悪感が込み上げてきた。
(初対面のはずなのに、本能的、潜在的な意識がこの人を敵だと感じている……なぜだ?)
「初めまして、皇と申します。私は外部から番組のアドバイザーとしてお伺いしています」
翔太は橘がこの場にいないため、霧島プロダクションの名前を出すことを控えた。
橘が外しているのは、この場を収めること以上に重要なことがあるためだと想定した。
翔太の知っている東郷は表に出ることを極端に嫌う人物であった。メディアの露出も極端に少ない。
(それを曲げてでも会いたい人物がここにいるのだろうか……)
いずれにせよ、この場は翔太一人で切り抜ける必要がある。
「それは失礼した。あまりにも美しい顔をしているので」
「いえ、構いません」
翔太は東郷が向ける視線に嫌悪感を抑えることができなかったが、なんとか表には出さないように努めた。
「ん? どこかで会ったことがあるかね?」
「初対面だと思います」
(まただ、この感じ……)
翔太の意思とは関係なく、体が東郷を拒絶しているような感覚を受けている。
「君は芸能界に興味はないかね?」
「!!」
狭山がビクッと反応した。
東郷の登場でスタジオは静まり返っていたが、この時ばかりはどよめいていた。
「申し訳ありませんが、全く興味がございません」
「「「!!!」」」
翔太が毅然と言い切ったことで、スタジオ内が驚愕に包まれた。
(今のところ、皇は霧島プロダクションとのつながりはないはずだから、類は及ばないはずだ)
芸能界に疎い翔太でも、東郷の影響力は十分に承知しているが、メディアの外にまで影響力はないと踏んでいた。
「東郷社長、彼は番組から招かれた専門家です」
(た、助かった……!!!!!)
翔太は橘が戻ってきたことで安堵したが、彼女が押し殺しているだろう感情に震え上がった。
橘は完全に無表情であったが、翔太は彼女が内包している感情を感じ取ることができた。
もし、その感情だけで人を攻撃できるのなら、対象の人物は原型がなくなるだろう――それほどの敵意を橘から感じた。
以前に雫石に向けたものとは比較にならず、もしこれを表に出せば失禁してもおかしくはない。
「橘くん、私もその辺はわきまえているよ」
「失礼いたしました。それでは」
***
「すみません、一人にしてしまって」
橘は運転しながら、助手席の翔太に申し訳なさそうな表情を向けた。
「特に大事にならなかったので、大丈夫ですよ。
狭山も柊翔太であることは気づいていなかったみたいですし」
「そうですか……どうしてもあの男を梨花に会わせるわけにはいきませんでした」
橘の意思はかなり強いものに感じた。
「柊さんは、東郷の行く末を知っているんですよね」
「えぇ、俺でも知っているくらいの有名人ですから」
東郷の所業が世間一般に知られることになるのはかなり先であり、法で裁かれることはなかった。
橘は翔太を真剣な眼差しで見つめながら言った。
「柊さんのお力で、東郷の未来を変えてほしいのです」
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