第174話 強大な敵
「ワーテルローの戦い!」
「正解! 神代さん、1ポイント追加です」
テレビ局のスタジオでは神代がクイズ番組に出演していた。
出演者はすべて映画の主役を務める人物だ。
彼女はあまりバラエティ番組には出演しないが、映画の宣伝をするためにこの番組に出演していた。
この番組では節目節目で、勝者に宣伝する時間が与えられる。
自分が好まないバラエティ番組に出演していることからも、神代の映画にかける意気込みがうかがえる。
「このままだと、このラウンドは神代さんが取りそうですね」
翔太の長い人生でも、テレビ局の収録に立ち会ったことは初めてだった。
この番組の最終勝者は専門家と対談する時間が与えられ、神代が勝利した場合はIT企業の専門家と映画の内容について話し合うことになっている。
この対談は番組の視聴者に映画に関心を抱かせることも目的の一つだ。
狭山もこの番組に出演しており、狭山が勝った場合には本職の刑事と対談が行われる。
翔太がこの場にいるの目的は、対談の場で神代が話した内容をファクトチェックするためだ。
誤りや問題がある発言は編集でカットされる。
「梨々花は歴史が得意なんですよ」
橘は淡々と番組の進行を眺めながら言った。
「皇さん、そんなことも知らないのね」
「なんで雫石がここにいるんだよ」
「狭山さんが勝ったら、私も対談に参加するのよ」
翔太は皇将としてこの場にいる。
サイバーバトルでは神代と同じチームであったため、この姿のほうが翔太がこの場にいることの説明が付きやすいとの判断だった。
「それにしても皇さん、かなりイケメンだね。芸能界に入ったら?」
「絶対に嫌だ。どうせお前の目的は神代さんだろ? 俺なんかを相手にしてていいのか?」
「そうだった、皇さんに構っている時間はないわ」
雫石はそう言いながらも、翔太のことをチラチラと眺めていた。
映画の共演者である狭山のことは一瞥もしていなかった。
(少しは気にかけてやれよ……)
過去に多少の因縁があったものの、翔太は狭山に同情した。
***
「君が皇くんかい? へぇ……カッコいいね」
(うげっ!)
収録が終わり、翔太は狭山に声をかけられてしまった。
周囲の女性からは「きゃあ」という黄色い歓声が上がり、翔太は非常に居心地が悪かった。
いつもであれば、このタイミングで橘がうまく捌いてくれるのだが――
「梨々花ちゃんとはどのような関――っ!」
狭山が上げそうになった悲鳴を咄嗟にこらえた。
一人の男性の登場で、スタジオの空気が一瞬にしてピンと張り詰めた。
彼は白髪交じりの髪を後ろで束ね、見るからに高価なスーツを身にまとっている。
柔らかな表情は一見すると温厚に見えるが、その眼光の奥には恐ろしい化け物を飼っているかのような鋭さが垣間見えた。
この男の存在一つで、スタジオの喧騒も一瞬にしてかき消えるほどの威圧感をひしひしと感じた。
狭山は恐怖を表に出さないよう、必死に取り繕っているように見えた。
(この男が東郷利三郎……)
後に、翔太と大きく敵対する人物――東郷との初めての邂逅であった。
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